ACT.184 トルレイト/挙動


『私を倒す…と言ったのね。』

「いいえ、殺す…そういう意味ですよ?」


拮抗する魔力と魔力、殺意と敵意―――。
そして、互いの魔力が空間を二分しつつある。


『良い度胸を――――――。』

「行きますわ。」


イルマが構えると共にメノウが駆ける―――!
それも、ソウジに匹敵する俊足で!


「そして」

『は………!』

「どうぞ、逝って下さい。」


魔力を纏い、足の加速を以て突き出される右手!
それをイルマは受け流す風も無く、


『ファントムシェイド。』


その


「ッ!」


魔法名を聞いた途端にメノウは慌てて飛び退く。
本当に、あと数秒の差だった。


「…危ない…“喰われる”所でしたわ………」


今まで余裕ぶっていたメノウが、
ようやく眼の前の敵の評価を改める時が来た。


『…技の名で反応できたと言う事は、しっかり知っているという事ね。
 幻術系・精神系の魔法にもそこそこ強いという事か。』

「……一応、“魔術士”ではなく“魔術師”ですからね。」

『…なるほど。
 ユーリケイルでの戦闘で、我が軍の兵士が戦意喪失し、
 逃げ帰って来たのは、女子学生の仕業だと聞いていたが……
 どうやら…お前が噛んでいたのね。』


そう言って、新たな魔法陣を作り出す。


『私が得意とするのは、精神魔法―――
 元々の使い手が少ない上、敵に回すと厄介だから、
 本来なら、リノン・ミシュトの相手は私がする予定だったのだけれど…』

「……その口ぶりですと、
 リノンさんはあなた方の手の内にいるという事でしょうか。」

『――――――(この女…)』

「黙られては困りますわ。
 でも、それは私としては想定内の出来事です。
 恐らく、キッドくん達の前にはアルベルト・ラライが向かったはず。
 彼はキッドくんに執着しているようですから、
 彼の敵意全てを自分に向けさせるべく、リノンさんを攫った…そんなところでしょう。」


予想通りと言わんばかりに、澱みなく続ける。


「そして、コーデリア姫もさらわれている。
 根拠としては、私たちを止める際のやり口でしょうか。
 私たちを単に食い止めたいのならば、数で攻めれば良いだけのこと。
 それをしないのは、他に脅威となる存在…
 たとえば刻印を持つキッドくんたちがいる………そのために戦力を温存したかった。
 だから、最低限且つハマれば最凶の精神魔法使いが現れた。」

『中々良い考えだ。』

「そう見せかけまして、本当はやはり、私が怖いから。」

『まだそんな事を…』

「いいえ、間違いなく畏れていますわ。
 ソウジくんやロックハートくんの戦闘データは大概そろっているでしょう。
 特にロックハートくんの事は、
 ソーライトの元隊長さんがあなた方の仲間にいるのですから、
 そこそこの対処も出来ますしね。ソウジくんは元々有名だから…。
 クロードくんに至っては、テレビでその姿を見れますしね。」


静かにメガネに指を掛ける。
ズレたそれを直すでもなく、外すでもない。


「ですが」


ただ―――その挙動が


「私の戦闘データは魔法に関することのみ。
 口伝は、“三ツ刃の戦慄”は三振りの刃を同時に扱うと言うことのみ。
 まぁ、そんな事よりも怖いのは、」


狂気を生み、絶望を少しずつ積み上げて行く。


「その女と戦ったとされる人間全てが死んでいること…でしょうか。」

『!――――――。』

「分かりますね、この意味。
 だって、分からないんですから…その女と本当に戦ったのか。
 その人は生きて帰らなかったのですから。」

『………それでもお前はここで死ぬ。』

「…では、仕切り直しましょう。きっと無駄でしょうけれど。」

ACT.185 Crimson Sealトップ