前編 第4話『禁断<パンドラ>』
スピリタス・・・アルコール度数96%の強烈な酒だ・・・
分かるよな?そんな酒が気化しているそばで煙草なんて吸ってると どうなるか・・・
「・・・スピリタス・・・・・・」
少し思い出した。黒の組織の構成員が近くに4人も居たあの事件。
「・・・・・・覚悟しておいた方がいいわよ・・・・・・」
いつもの少し冷ややかで 見透かすような眼で見つめる。
「・・・あなたが推理から手に入れたそのアドレスを得たこの状況で
組織との関わりを更に持ってしまったら・・・・・・」
「な、何だい・・・?組織・・・って。」
「「あ・・・」」
今しがた来たようだった。コードネームは訊かれていない ハズだ。
「き、昨日の仮面ヤイバーのハナシだよ。アハハ。」
いつものパターン。
「あ、そうなのか。まだやってるんだったね。」
「高木君、呑気に話している時間は無いのよ。」
「す、すみません、佐藤さん。」
いつになったら名前を読んでくれるのだろうか、と佐藤は思う。
特別、期待してはいないが・・・やはりそうしてしまう時がある。
もっとも、今は勤務中。公私を混同しない為に姓を読んだのだ、と思っておくことにした。
無論、高木にそんな機転は無い。
(謝ってばっかだな、高木刑事・・・)
(あら・・・でも、こういうのに限って、尻に敷かないコトもあるわよ・・・)
何の話やねん。
「えっと・・・」
「あ、さっき僕の方に新一兄ちゃんから電話があったんだけど、
前にもこういう事件がなかったか調べて欲しい、って。」
2人及び灰原も訊いていないので疑問符だ。
「被害者は多分、末端にいる麻薬の売人で殺したのはその上に居るグループか何か。
殺されたのは“仕事”をこなしていたのに何らかの理由で・・・か、
もしくはミスって足が付きかけたから・・・だと思うけれど、
後者だと“裏切られた”っていう被害者の言葉の意味と合わないから、多分前者。」
「・・・・・・もしかして・・・・・・」
「そう。足が付いたとかじゃなく、足が付く前にある程度“仕事”をさせて消したんだよ。」
・・・って新一兄ちゃんが言ってた。 と付け加える。
「なるほど・・・その密売組織が常にそう云うやり方で売りつつ、
末端を消す事で組織の存在を表に出さないように・・・・・・」
「あの手のモノはやればやるほど、綻びが出て発覚しやすいから・・・でも・・・」
でも・・・?
「珍しいわね・・・コナン君の意見が無いなんて・・・」
「あ、いや、ホラ、“まやく”の事なんってぜーんぜん知らないし、
いつも適当に気づいたこと言ってるだけだから、アハハ。」
何だ、その不安定なキャラ・・・
「まぁ、いいわ。とにかく、似たような件を調べればいいのね。
向こう(薬物関連)の係にも改めてそれを言っておくわ。」
車は盗難車であった。ナンバープレートに関しては偽装も無かった。
中は完全に空っぽで加えて最悪な事に消火器がばら撒かれていた。
しかし、コナンの推理通り助手席近くの側面や窓から僅かにルミノール反応が検出され、
被害者の血液型と一致した事から犯行車両には間違いないと断定された。
この日は残った証拠を見せてもらい、帰ることにした。
翌日(土曜日) 阿笠邸
「ニュースでも騒がれておったぞ。哀君からもある程度は訊いたが・・・」
「あぁ、だろうな。でも、薬の事は出てねぇだろ?」
それはあくまで僅かながらの防衛策。
もし本当に黒の組織が絡んでいるとしたら薬の事が公表されようがされまいが、
関係なく地下に潜るか全くの別地で行動するだろう。
「しかし・・・・・・本当に大丈夫なのか?」
「あん?」
「君と哀君の姿がもし他のそやつらに見られておったら・・・」
「あぁ・・・」
それは多分なかった。ナンバープレートを見たのは歩道からだったし、
駆けつける時には(組織と絡んでいるか知らなかったが)口封じの対抗策として顔を見せないようにした。
加えて、死亡確認後すぐに辺りを見たが目視する限り、そういった怪しい人物やモノは無かった。
現在の米花、杯戸近辺は徹底的な捜査とパトロールが行われているし、
現場近くに居たのが帝丹小であるという事も公表されていない。
教師や親も“麻薬”“拳銃”“殺人”となれば萎縮して、口外しないだろう。
もっとも、マスコミは関係なく騒ぎ立てているが、
報道規制も敷かれていいる為、殆どが大した情報ではない。
「あら・・・朝早くから感心ね・・・」
「まーた、オメー眠そうな顔してるな。」
「・・・・・・酷い言い方ね・・・」
シルバーの正方形のケースを取り出し、その中身を見せる。
「・・・・・・お前・・・それ・・・」
博士も驚いている。
「・・・必要・・・・・・?」
「・・・ああ。この姿じゃ・・・もし本当に奴らが絡んでいるとしたら、ヤバいと思う。」
・・・沈黙――――――
「・・・・・・灰原・・・?」
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「もったいぶるなって・・・」
「・・・工藤君・・・これは賭けよ。」
「・・・?」
「あなたがあらゆる事、全てをよく考えた上で、
そしてパンドラの箱を開けても尚、突き進みたいと思うのなら・・・」