Episode2
―secret heart 〜秘めた言葉〜(13)―
歩き始めて、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?
懸命に推測しようと試みて、快斗は自分が今まで何処を歩いてきたのかさえも覚えていない事に気付いた。
自分らしくも無く―――『平成のルパン』とまで言われた怪盗には
有り得ない事だ―――すっかり動揺してしまっているらしい。
隣では、その後一言も言葉を交さないまま真由美が歩いている。
すでに夏の気配が満ちたこの街で、何処か存在感に欠けた彼女は不思議と涼しげに見えた。
「今更だけど―――何処に行こうとしてるのさ?」
「そんなに時間はかからないわ。」
こちらを見ようともせずに、彼女がこたえる。以前
「なんでそんなに愛想がないのかな。」
などと聞いたら
「貴方に使う愛想なんてないもの」
と言われたことがあったのを、快斗は思い出した。苦笑が漏れる。
「それ、微妙に答えがずれてない?」
「どうせ、最後にはそう聞くんでしょ。」
どうせ、最後にはそう聞くんでしょ―――。
頭の中で反芻して、快斗は何も言えずに口を閉じた。
そう言われると、本当に最後にはそう聞こうとしていたような気がするのは何故なのだろう?
ふと、彼女が歩みを止めた。
「こっちよ。」
それだけ言って、身体の向きを変えてまた歩き出す。
曲がったその先は、たしか山だったような―――
頼り無い記憶が快斗にそんな事を告げてくる。
「この先って、山じゃなかったっけ?」
「―――――――えぇ。まぁ、そうなるのかしら―――。」
だがもしその山が目的地だとすると、自分達は大分回り道をしたことになるのではないか。
その山は、江古田高校から僅か徒歩10分。快斗達はぐるりと山の裏側まで来た事になってしまう。
何故わざわざそんな真似をするのかと疑問に思ったが、
カーブが終った瞬間に見えてきた物がある事に快斗は気付いた。
「これって――――――教会――――――?」
高い屋根に掲げられた十字の装飾に、豪華過ぎる事はなく、
けれども充分に美しいステンドグラス。
周囲に広がる一種荘厳な空気は、教会という場所に似つかわしい。
「こんな場所に?―――初めて見るよ。」
普段滅多に来ない山の裏側。そこに教会が存在するなど、考えた事も無かった。
「こっちよ。」
真由美がその教会の脇をすり抜け、奥に続く山道を登っていく。
教会の裏手に位置する山となれば、相場は決まっているだろう―――
やがて遠目にもはっきりと見えてくるそれは、
数々の十字架と慰霊碑達。麓と同じ空気に満ちたそこは、紛れも無く墓地であった。
Episode2(14)
C.O.M.'s Novels