Episode2
―secret heart 〜秘めた言葉〜(14)―
「これが――――――私の両親の墓。」
そう言って、真由美が立ち止まった場所は、森に囲まれたこの墓地の一番奥だった。
他の墓が整然と並んでいるのに対して真由美が指したその墓石だけは
それらの列から外れており、森の切れ目とでもいうのか、陽がよく当たっていた。
「――――――そう、なんだ。」
それ以外の言葉を思いつけず、快斗はその一言だけを口にした。気付いていなかった訳ではない。
あの広い家の中で、妹と二人だけで暮らす少女――――――
そこに、その存在は無かったのだから。
はっきりと『死んだ』という言葉を聞かなかっただけだ。
ただ、聞けなかった。確かめる事が出来なかった。それだけだった。
「私は――――――運命に呪われている。前に言ったはずよね?」
「―――また、そんな話?」
いつもの唐突さで、彼女が話し始める。
そして同じように、快斗にはどう応えるべきなのか、分かりはしなかった。
「母は―――私と同じ髪をしていた。」
プラチナ色の髪を、真由美はそっと撫でた。
少なくとも日本人の色ではないそれは、けれど眩しいほどに陽の光の元で輝いている。
「祖母も―――曾祖母も。白木の家に生まれた女性はすべてそうなのだと、そう聞いているわ。」
「――――――それで?」
話の中で、快斗は思いを馳せる。何よりも美しい白金の髪を持つ、誰にも知られざる一族。
そんなものは、たとえ話に聞いたところで信じはしなかっただろう。
今、彼女が目の前に居るから。かろうじてそれは認識できた。
「そして―――母は、こうも言っていたわ―――『一族の女は、すべてが死の元に生まれている』、と。」
「死の、元に――――――?」
「事実として、私が14歳の時に母は死んだわ。
彼女が生きた時間は、僅かに30年――――――母に限った事じゃないの―――
40年生きた女性は、少なくともこの300年の中では居ないそうよ。」
馬鹿げた話だと、一笑に伏してしまいたかった。
だが―――――自分が捜し求める『パンドラ』とて似たような話だと思うと、そんな気にもなれない。
「思うの。私は――――――どうやって死んでいくのか、って。」
「そんな話、したくないね。」
精一杯の強がり、というなら快斗が発したそれは間違い無くそうだっただろう。
彼女が―――白木真由美が、どうやって死んでいくのか。
(君が、死ぬ――――――?)
彼女の言葉を借りるなら―――そしてそれが真実だとするなら、
真由美自信もまた長くは生きられない。そんな考えは放り捨ててしまいたかった。
「それは、逃げるという事?」
真由美の声が、透き通るように耳に届く。
逃げる。
それでも良いと快斗は思う。
脳裏から締め出す事が出来ないなら、いっそ見えないように覆い隠してしまえばいい。
それが、出来るのならば――――。
「………さあ。正直、自分でも分からない。」
声が震えている事に、我ながら呆れた。自慢のポーカーフェイスは何処に行ったのだろう?
「母は、死んだ。父も一緒に――――――
それが父の母に対する愛情だったと分かったのはつい最近の事だけど――――――
自ら命を絶った。残されたのが、私と香澄。」
まるで物語りでも読むかのように、彼女は感情を交えることの無いまま話を紡ぐ。
「いつか、私が死んだ時――――――私は、どうなるのかしら?
天国に逝けるのかしら―――――そんなものが、もしあるとするなら。」
君は、死後の世界―――――そんなものがあると?僕は呟く。
どうかしら?君は、囁くように笑う。
この時間はきっと幸せだけど――――――その笑顔はもっと、
幸せに遠くて。
Episode2(15)
C.O.M.'s Novels