Episode2
―secret heart 〜秘めた言葉〜(15)―
「そんな世界は―――――ないよ。」
何故いつも、彼女の言葉を遮るのだろう?
何故、彼女の心を裏切ろうとするのだろう?分からないまま、快斗はそれでも口を開く。
「人は、誰もが死ぬ。誰もが悲しむけれど、時間が経てば誰もが忘れる。
いつかは、誰も自分の名前を――――自分がどんな生を生きたのか―――
知る人が居なくなる。残酷なようだけど、そうやって人は消えていくんだ。」
彼女が求めているのは、こんな言葉ではない―――――
だがそれならば、彼女は何を求めているというのだろう?
幾度も頭を過った疑問は、今も自分を悩ませるまま。
「いつまでも―――誰かに自分を覚えていて欲しい。
いつまでも、誰かに自分を想っていて欲しい――――――
―――そんなものは、ただのエゴだ。」
真由美の傍に在りたいと、快斗は思った。
彼女が望む時に―――彼女が望むままに、彼女の救いとなれるとしたら、
それは―――――素敵なことだろう。
けれど―――――傍らにあるには、真由美の心は綺麗過ぎて。
近づけば近づく程に自分は彼女を汚してしまう――――――傷つけてしまう。
己は、漆黒の闇夜に躍る影。
目の前の姿は、宝石にも似た淡い、微かな光。
手を伸ばしたなら――――――消えてしまう。そんな気がした。
「消えるの?――――――私も?」
「ああ。そうだ。」
「―――――あなたも?」
「例外は無い。多分ね。」
一瞬の沈黙を残して。彼女は瞳を閉じる。気がつけば、もう陽は暮れ始めている。
「自分がこの世からいなくなっても――――誰かに自分の事を覚えていて欲しい。
長い―――――長い時の中で、たった1秒でも良いから。
誰かに私を想っていて欲しい―――――そう思うのも、エゴなのかしら?」
風がすぎゆく。彼女が瞳を開く。微かに滲む瞳は、涙に揺れているのだろうか。
「私は、忘れたくない。――――――忘れられたく、ない。」
いつか、私が死んだ時に。それで全てが終わってしまうなら――――――
「それは――――――寂しすぎる、から―――――」
真由美の瞳が快斗を映す。
潤んだ目に、登り始めた月が蒼く色を変えていく。
染められた月の中に、何かが滲む。
彼女の心が、今初めて目の前にある。
けれど、やはり手を伸ばす事は出来ないままに――――――。
快斗は立ち竦んでいた。
Episode2(16)
C.O.M.'s Novels