ACT.103 紅錬の槍


ほぼ同刻

「たっ、隊長ッ!!」

ガキイッッ!!

「大丈夫だ、リカード君。皆の手当てを優先させろ!!ッ!!」

今、クライセントが対峙するのは巨剣を抱く男。

「この男は、“スワン・ホーゲル”は俺がやる!」

『・・・・・・この、船をも沈めし斬艦刀をよくも槍でいなせるな。』


ザ・・・リッ!


「・・・・・・ローテルダム騎兵隊、総隊長の名は伊達じゃない!!!」

一気に踏み込み、あまりに都合が悪い相手を弾き飛ばす。

先刻、突如として襲撃してきたこの男。
襲撃ならば、トルレイトやラゥム一派だと考えていたが、
ここでまさか死んだ男が現れ、隊員たちを蹴散らしてくるとは思わなかった。

『クク・・・・・・それにしても、今日我が夢が1つ叶うとはな。
 クライセント・クロウ。主とは一度、戦ってみたかったのだ。』

「それは光栄だが・・・
 どうして生きている・・・半年前のソーライト崩壊・・・
 あの事件であなたはある一人の剣士によって殺されたハズだ。」

そう、間違いなく死んだとされる男だ。
死体も確認されたはずだ。

『・・・ロックハート・・・か。
 クク・・・あのような童に殺される訳がなかろう。
 それから、拙者の今の名はカタルカスだ。』

「・・・“魔人名”・・・か。その魔力・・・明らかに魔人と同質だ。
 つまり、魔界と契約したものだな・・・その使者が俺を殺しに来た・・・
 ・・・・・・あなたはラゥムかトルレイトの元に居るのか?」

違うのは間違いないが聞いてみて反応を伺うに越した事は無い。

『・・・結託などありえぬな・・・
 人間などと手を取り戦うなど、虫唾が走る・・・』

ならば、ヒルダンテス―――・・・・・・

「・・・つい最近までその虫唾が走る種族だった者がよく言う・・・」

『・・・己でもその言葉の愚かしさは分かるが・・・貴様らの方が愚かであるのは確かだ。』

「・・・どう言われようと構わんが、
 俺の大切な部下を斬った罪だけは償ってもらうぞ。」


ズ・・・オッッ!!!


『ッ・・・!!』

「ヨハン国王(ソーライト王国国王)を裏切った貴様は騎士として許さんぞ!!」

一撃目を外したが、
次ぐ2撃、3撃でそのズレを修正して行く。

巨剣を振られる前に確実に動きを締め出し、場のイニシアチブを確立する。
槍に剣が勝つは難しいと言われるが、相手の得物は剣ではなくもはや鈍器。
その手の考えでは一撃で負ける、そう直感しての連撃だ。

『クク・・・ハッハッハッハ!!!』


  ギィイ  イインッ!!!


「ッ・・・!」

だが、そう上手くも行かない。
相手は一部隊の隊長だった男―――ソーライトが誇る英傑の一人だ。

『武士とは君主を選ぶものよ!
 主君を愚かと感じる故に見切りをつけるのは当然の事!
 全く以って、貴様もロックハートも愚かであると言わざるを得ぬ!』

「・・・それで・・・ヒルダンテスという男か。」

『あの方は崇高だ。拙者に新たな世界を見せ、与えてくださった!
 愚かな人間であった拙者に力を与えてくださった!
 ヨハン如きにその様な真似が出来たか!?否!』

カタルカスの口腔に魔力が溜まり始める。

「!(これは!)」

『“焔よ、哭き叫べ”―――ブレイズロア!!』



ドォッッ!!



「ぐ・・・っっ!!!がハッ!!」

口より放たれる高速の広角火炎!

『この焔は魔界の番犬、ケルベロスの業火よ・・・
 徐々にその身体を焼き、精神を斬り裂き、遂には死ぬのだ。』

「・・・・・・熱い・・・
 だが・・・・・・その程度か。」

『何・・・・・・!?』

クライセントを燃やさんとする焔の勢いが急激に衰えて行く。

「・・・俺が何故、
 “紅錬(ぐれん)の槍”と呼ばれているのか全く分かっていないな。」



ズ・・・・・・オッッ!!!!



『―――――――――・・・・・・?!!』

「俺は俺の最大魔力値より小さければ如何なる魔法でもそれを俺の力と化せる。」

『・・・流石だな・・・魔法は使えずとも魔力の扱いに長けるという
 ローテルダムの騎兵隊の歴史上でも稀に見る才気・・・
 その結晶が今、拙者の炎を転換して創り出した左手の炎の槍か。』

「・・・・・・・・・」

構えるは鉄の紅い槍と魔力の赤い槍。
二槍術など振る意味などないが、
意味があるからこそクライセントは構えている。

『まぁ・・・いいだろう。それ程の力を持つ男よ。
 加えて、ダブルランスなどという特異な術式・・・ここで殺さねば、面倒だ。』

互いの魔力が高まり、それぞれの獲物を包み込み鋭く尖る。

『・・・・・・・・・』

「・・・・・・
 ―――――――――オオオオオオッ!!!!」


グォッッ!!!!


『ヌゥッ!!(左の火炎槍!)』

瞬時に行動を読み取り、火炎の槍の斬撃に備える。

「シッッ!!!」

『やは―――――?!』

頬を何かが掠める!

『――――――!?
 (投げた・・・だと!?片手の獲物を自ら離す・・・チィッ!)』

「弾け、」

クライセントから放たれた槍が、カタルカスの背後で四散する。

「束ねろ!」

『何・・・ッ!?』

そして火炎が背後から襲い、カタルカスの両腕を封じる縄となる。

「甘く見たな。短かったが終わりだ!!」

『グッ!!(この男、強い!)』




                    ドスッッ!!