ACT.106 逃走者


翌朝 ユーリケイル共和国

「君の身柄を解放する事になったよ。体調に異常は無いかな?」

『テンション最悪。』

あからさまに悪態をついてくる。

「それは済まなかったね。」

『ま・・・
 国際条約ってのを守ってくれたみたいだしー、その点では良かったけどね。
 で、いつ離してくれんのさ。こっちだってやる事は沢山あるんだからね。』

「いくらなんでも、ここでは無理だよ。
 彼ら3人を含めた4人で移動だよ。」

(うわ・・・ホントに先輩、捕まえてたんだな。)

(ナギナタの人よね。
 っていうか、妙にリラックスしてるのは何で・・・?)

一般人の想像じゃ、なんというかもっとこう凄惨・・・
とまではいかないが、普通の状況じゃないと思っていた。

『何だー・・・ここの軍の奴らかと思ったら、
 シンちゃんに刀折られたのとヘーハンを倒しかけたコじゃん。知らないのいるけど。』

知らない、というのは無論、

(よくもまぁ、敵地でこんだけ喋れんなァ。)

この喋り魔色黒忍者である。

『・・・ん?アンタ、何でもう刀持ってる訳?』

「・・・・・・オメーに言ってどーすんだよ。」

『ハーン・・・シンちゃんの菊姫に敵いそうな刀がなくて、
 仕方ないから間に合わせでテキトーに選んだって感じ?』

「残念だったな、コノヤロウ。
 この前の襲撃ん時、シンの野郎は俺が追っ払ったんだよ!」

ビシッとユリに指を突きつけてみるが、どう見ても主人公の行動では無い。

『はァ!?あのロックハートだとかこの色男だったら分かるけど、
 アンタみたいな素人剣術使いがシンちゃんに勝てるわけ無いじゃん。バカ?』

「あんだと!?」

『何よ、シンちゃんに勝てるワケ無いじゃん!』


がボッ!


「べんばいっ(先輩)!?」『イブラ(イムラ)!?』

「お前は僕の指揮下で、君は捕虜なんだ。
 互いに干渉しあうなよ・・・というか、余り僕を困らせないでくれ・・・
 あと塞いでる手を噛まないで欲しい。少し痛い。」

「チッ。」『フンッ!』

(うっわ、同類項・・・)

あなたもだと思います、リノンさん。





同刻
『・・・申し訳ありません・・・』

『・・・・・・カタルカスに勝手に付いて行き、
 戦火を上げるならまだしも魔人の能力まで見せて逃げ帰ってくるとはな・・・
 正直、君には失望している。ローズ。』

『―――――――――・・・・・・申し訳ありません。』

金色の髪に漆黒の衣―――
圧倒的な魔力の威圧はその存在だけで上級の魔族すら蹴散らす程―――。

『で、ですが、あと少しであのくノ一を!』

『ケッ、お前は殺されていた。それは確実だ。』

『―――――――――!!』

突如現れた影―――。
その空気もまた一介の魔族を凌駕する気迫だ。

『テメェ・・・・・・カヴィス・・・!』

『久方振りです。今後について自ら伺いに参りました。』

ローズなど気にしてはいない。
最初、言葉を発した数秒だけだ。

『・・・カヴィスか。
 その“皮”は着心地が悪そうだな・・・』

『それももう暫くの辛抱・・・さすれば。』

『その通りだ。君は賢く、そして私の理想を最もよく分かってくれて助かる。
 貴様らもカヴィスのように成れとは言わん。見習うぐらいの努力を見せろ。』

『・・・・・ハッ・・・
 拙者・・・・・・身命を賭して、ヒルダンテス様の望むままに。』

『・・・ハ。
 (癪だねェ・・・こんな鬼の下にいなきゃならないなんて・・・)』

『・・・・・・さて・・・・・・』



カツ・・・ ンッ。


『3年にも渡った第一段階もいよいよ締めくくりだ。
 しかし、幾つかイレギュラーが起きている。そうだったな?』

『ハッ。1つは蒼空の刻印・・・ロックハート・クラウン。
 1つは紅の刻印・・・キッド・ベルビオス。その同行者、ソウジ・イムラ。』

『・・・・・・・・・』

カヴィスが僅かに反応する。

『加えてそれらの協力者は皆、人間としては上位ランクの力であります。
 そして、クライセント・クロウ・・・あの男はやはり危険・・・』

『テメェらが弱ェからだろーが。』

『『―――――――――ッ。』』

カタルカスとローズは共に言い返すことなど出来ない。
失態があるから―――それ以上にこの鬼の力は圧倒的なのだ。

『止めろ、カヴィス・・・
 ・・・そういえば・・・トルレイトのあの一件はどうなった。』

『ハッ。現在、逃走中との事。』

『・・・“何故か”暴走し単独行動に走ったハーバードは
 ロックハートにやられかけたと聞いている。
 逃走者には別の一手を使うとしよう・・・・・・
 そろそろアレを使うときかもしれぬな・・・』