ACT.108 ハザード


『―――!カイ!』

部隊の後方から大男が歩いてくる。
ユリと同じく、ローテルダムの色違いの軍服を纏った男は
カイ・バイスと名乗った巨大武器使い。

「これで、君は釈放だ。数日閉じ込めて済まなかったね。」

『・・・・・・(コイツ・・・)』

『どうやら、丁重に扱って頂いた様だな。感謝する。』

深々とお辞儀をする彼に悪意も敵意も感じられない。
だが、後一歩前に進めば戦闘になる緊張感・・・

「・・・・・・ついでに退いてもらえないかな。」

『・・・そうするようにと、隊長に言われている。』

『なっ!テメェ、何の権限で!この場はこの俺の!』



 ド            ギャッッ!!



『がはぁっ!!』

『第二大隊第一中隊隊長の側近を見殺しにしようとした非道なる心。
 同志として真に遺憾だ!!!貴様らは後に正してくれよう!』

(かなり武士道なオッサンだな。)

(よね。敵ってのが妙な話だけど。)

『カイ・バイスの名を以ってこの場の全兵力を撤退させる!!よいな!!』

『う・・・あ・・・・・・』

兵が従い退いていく。

『これで借りは返した。という事になるな。』

「貸しを作った覚えは無いけれど、そう思って貰えるのは嬉しいね。」


ザッ。


『我々もこれで一時、仕舞いとさせてもらう。』

「・・・帰る前に1つ、シンに伝えて欲しい事がある。」

『・・・・・・何をですかな・・・』

「・・・君が何を考えているのかは僕には到底分からないが、
 何かをするつもりなら早々に実行するべきだ・・・と。」

『・・・承知した。
 一言一句そのまま伝えることを約束しよう。』

ヴンッ。

「す・・・げぇ・・・」

「口だけで退かせちゃったし・・・・・・」

いや、人質にされちゃったり、
いつの間にかダシに使われた彼女の事はもう少し考えるべきだと思う。

「せやけど、あの男も見上げたもんやで。
 俺の持っとる録音機を奪う素振りすらせーへんかった。
 “自分らで正す”て言うてんのはホンマみたいやな。」

「それは僕も驚いたよ。
 でも、退かせたのにはもう1つ理由がある。」

「――――――魔力・・・!!」

その複数の禍々しい空気と共に同数の気配が4人を囲む。
ソウジは“気配”に気付いていたが、リノンがいち早くその魔力を感知した。

『『『カ・・・ァハァ・・・・・・・・・』』』

その正体―――。

「・・・ゲ・・・っ。」


その・・・
    ・・・・・・何とも形容出来ない身体の構成・・・


「き・・・気分・・・最悪・・・・・・」

というか、そいつが吐く紫色っぽい息・・・

『ガギャアアアアッッッ!!』

「うおおおっ!?」

ゆったりした動きから機敏に変わったその姿―――
魔物の中でも撃破の面倒さと、ある点において最強の名称―――

「ゾ・・・ゾンビ系モンスター・・・・・・!」

『ブ!!グル!アアアアアアアアッ!!!』


ザ!ザ! ザ!   ザ!  ザ!


「うきゃああっ!いやああああっ!来ないでーッ!」

「おわあああっっ!!ちょっ、来るなっつーの!おいいいっ!?」

何となく余裕があるのは機敏とは言っても、
やはりゆったりしているからだ。

「って、こっちに寄せんなぁっ!!苦無連発やっ!!」


ズバシュッッ!!!


『グ・・・ゥ・・・』

「・・・・・・キ・・・
 キツイね・・・ハハ・・・」

ゾンビ系は容姿から匂いまでありとあらゆる点で凄まじいのだ。
毎年ランク付けされる嫌いな魔物では30年連続3位以上を獲得している。

「キッド!さっさと火葬せェ!」

「わーってるってーの!!新技その2!」

名刀“天翔”が赤い光を放つ。

「ヴォラーレヴァンパ!!」



カッッ!!!                ボッッ!!



『『『ぐぎゃかああああっっ!!』』』

ブスブスと身体が崩れかけていくが、まだ動く。
死人としての圧倒的な死への耐性。
それが元命を持ったものの強さだが、攻略法はある。

「上手いな、キッド。
 神刀流、神羅鏡崩刃、最多分身!」


ぼフッッ!!


「ふー・・・・・・っ。」

火炎による焼却や、多勢による連続攻撃。
それによって粉々に砕く、のだ。

「流石、先輩・・・
 この技、あんま自信なかったんスよ。」

「いや、高速放出というのはいい着眼点だよ。
 慣らしていけば、もっといいモノになる。」

「気をつけてください!―――まだ・・・!」

リノンが叫ぶ。

「何言うてんねん、魔力なんかドコにもあらへんて。」

「リノン・・・お前、あの匂いで感覚ズレたか?」

「バカ!上にいるのよ!
 具現魔法、“神々の召したりし者!”レギンレイヴ!」