ACT.114 ローテルダム危機/否定


「ラゥムが魔界と協力しているって・・・」

「流石の僕でも意味不明だ!説明したまえ!」

「・・・ラゥムは世界を欲しがっている。それは誰の眼にも明らかだ。
 つまり、“ローテルダム王国に固執する必要は無い”というコトだ。」

「「!?」」

ロックハートのこれはソウジと同じ推測。

「魔界にローテルダムを売り、それを足掛けとして魔人の仲間入りを果たす。
 自分の身ではなく、ローテルダムという大陸最大の国を売るという事は、
 後の地位もそれだけ確たるモノとなり、世界征服が更に近付く。」

その時点で東大陸全土を支配する力ぐらい手に入れられる。

「そして、ヒルダンテスにとってローテルダムは非常に邪魔な国だ。
 軍事力、政治力、あらゆる面で世界に影響力のある国。
 魔界への徹底抗戦を呼びかければ、それこそ鶴の一声で諸国が従うだろう。
 その前に全てをつぶしきってしまえばいい・・・」

「・・・利害は一致している。
 ラゥム派はローテルダムを売って魔人に、
 ヒルダンテスという男はその国を買い、完全に支配下に置く。
 ッ・・・最悪ではないか!」


ザむッ!!


「シンを完全な敵だとばかり思い込んでいた俺たちがバカだった!」

「でも、どうして真相を言わずにそんな間接的なことを。」

「・・・恐らく、監視者が居るハズだ。
 それもラゥムの隠れた腹心・・・」





同刻
『・・・どういうコトだ・・・?』

『・・・何か問題でも?ヘーハン。』

『ふざけた事を言うな。ラゥム様の命はユーリケイルを攻め落とす事だ。
 何故、ローテルダムに引き返す?!』

『・・・ユーリケイルは落せないんだよ。彼らがいるからね。』

落とせない。落とさせるわけには行かない。
そして自分たちが離れてしまうわけにも。

『ん・・・?
 何かかなり文句あるって感じだね・・・クスクス。』

『何度も言わせるな・・・
 貴様が勝手な行動をすればするほど』

『“ラゥム”が困る・・・?』

『キ、貴様ッ!ラゥム様と呼べ!!』

激昂するフードの男。
シンがくすくす笑うたびに魔力が荒れて行く。

『やっぱりね・・・
 ・・・チュージ、君がカイが来るまで指揮を執ってね。』

『分かったよ。』


ザッ!


『・・・・・・それにしても笑えるなァ・・・』

『何・・・?』

『僕が今の今まで君の監視活動を知らなかったと思ってる?
 もっとも、クライセント総隊長へ情報を流した事までは知らなかったみたいだけど。』

『アレも貴様が!』

途端、一気に距離を取り合う。

『・・・ラゥム一派に潜り込んで正解だったよ。』

『造反者め!!ここで殺してくれよう!!』

『勝てるつもり・・・?
 この僕に・・・それも殺すと・・・?』


コォッッ!!


『ウ・・・・・・!!(何て冷たい眼だ・・・!)』

『クスクス・・・
 今更、止めるなんて言わせないよ。菊姫の餌食にするから。
 もし思いっきり抵抗したいんなら、君の特性をさっさと出した方がいいね。
 それでも・・・君はバラバラに散る事になる。』

『・・・・・・覇ァッ!!!』

ヘーハンの魔力が一気に立ち上る。

『貴様相手に我が力を全て使わずとも!!』

『・・・白刃流免許皆伝。それに勝てるのかな・・・?』

『魔道砲ッ!!』



ドゥッ!!!



『受け止めよ、その衝撃。リキッド。』

黒紫色のエネルギーが流動する壁に当たり、消滅する。

『!』

予想外―――想定外―――
魔術師などでは無い男に自分の魔力が破壊されるなんてありえない。

『・・・相殺か・・・
 まぁ、仕方が無いよね。“魔族相手”に相殺ならいい方だ。』

『!・・・我が正体を・・・・・・』

『クス・・・今の今まで君がフードを外した姿を見た事が無い。
 まぁ、どういう推測で決め付けたかは言わないけれど・・・
 君は間違いなく魔族だ。しかもちょっと厄介な“唇眼族(リップスアイ)”。』


ザリ・・・ッ


『――――――――――――!!』

後ずさる―――
このニンゲンは危険だ と本能が叫んでいる。

『知ってるかな・・・・・・?僕って魔族がとっても嫌いな事を。
 嫌悪感だとかそんなレベルじゃないんだよ。
 この世からその痕跡を全て消し去りたいくらい嫌いなんだ。』

『ウ・・・・・・』

『完全に否定してあげるよ。
 そしてその記憶も全て消滅してあげる。この刃でね。』