ACT.125 ローテルダム危機/侮り難し
「姫、私から絶対に離れないで下さい!」
「う、うん!」
もう離れるとかじゃなく、ピッタリくっついている。
そうさせるのも、あのアルベルトという男の威圧によるものだ。
「リノン、そのコの傍から離れたんなや。」
同じくリノンはクリスの傍につき、いつでも詠唱・発動が出来るように構える。
「前衛は俺とキッドでええかな、総隊長。」
「ああ、俺はメノウ君と共に中盤で固める。
自分たちの戦いに専念してくれ。」
ザァッ・・・・・・
『フム・・・君達はお嬢さん達の相手をしなさい。
クライセント・クロウ殿は少々厄介ですので余り深追いはせず。
私はこの2人の相手をしましょう。無意味な事はしないで下さい。』
『『『ハッ。』』』
「なーにカッコつけてんだよ、コノヤロウ。」
ボッ!!!
『ほう・・・・・・素晴らしいですね。』
溢れ出る魔力に対して全く臆していない。
余裕しかない。完全になめられている。
「それに姫達に近づけさせるかよ!」
「まずはそれやな。操糸術、氷紋鋼窄。」
十本の糸が飛び交い、家の壁に刺さり鋼鉄線の壁を作る。
下手な跳躍では身体を傷付け、
かといって魔法や魔力による攻撃をすればその隙をクライセントが突いてくれる。
『『『・・・へぇ・・・・・・』』』
『中々魅せてくれますね・・・・・・
ウィルム、私の刀を。』
唯一動かなかった女性から漆黒の鞘の刀を受け取る。
『手入れは万全です。』
チャキッ・・・
『ありがとう。うん、良い具合なのが鞘越しに良く分かる。
お陰で・・・この2人は子供ながら愉しめそうです。』
スラッ・・・・・・
「!
あの鋭く黒い乱刃は・・・・・・!!」
鞘と一体化さえしているように見間違える刃。
『ああ、流石です。
メノウ・クルストさんは知っててもおかしくないですよね。』
「・・・・・・そう・・・ですわね。」
『かつて自分が使っていたものと同系列の業物なんですから・・・』
(んな・・・メノウさんって元剣士・・・!?)
そうとは全然思えない。
完全に魔術師タイプの人だが、あの男が持つ刀の名を知っている。
それは単なる知識ではなく、自分がかつてそこに居た事を示している。
『大業物・・・・・・“獄統(ゴクトウ)”。
君の“天翔”と同等と言われる刀です。』
互いに正眼の構えに移る。
足場の悪い屋根の上―――。一時の油断もしてはならない。
「俺は別に刀の名前に興味はねぇよ。」
『・・・剣客とは思えない言葉ですね。』
「俺はまだ学生だってーの!バーカ!」
「ときどき、学生だからって嘗めるなョ!って言ってるョ。」
「う・・・・・・」
そこでツッコミを入れるか、フツー。
『どちらにしてもですよ。
君にそんな業物を持たせておくのは非常に勿体無い。』
ザ ァッ! ! !
「――――――!!っあっ!!」
斬撃?
「っ・・・・・・」
疑問符がつくほどに速くて、
止めたのも単に条件反射のようなもの。自分の意識じゃない。
『む・・・・・・受け止めましたか。』
「ブッ殺す!!
ジュストォッ!!ストッカーレ!!」
『!』
ボフッッ!!!
『――――――。』
アルベルトの袖が焦げる。
『・・・凄まじい熱量だ・・・』
「次は顔面に食らわすぞ、コ」
ビ ジッッ・・・!!
「っあっ!!!」
「なっ、どないしたんや!?」
アルベルトの攻撃を受けた訳じゃない。
他のどの敵からでもない。なら、何が―――。
「・・・な・・・・・・何でもねぇよ。」
「何でもあらへんこと無いやろ!?」
『隙有りですね。』
「!!
テメ、させるかっちゅーねん!」
大気中の酸素が燃焼し、爆発を巻き起こす火遁術を放つ。
「喪爆天<ソウバクテン>!!」
ド!!!! ゴォ!!!!
『クッ・・・!目晦ましですか!』
コォォォ・・・・・・・
『・・・・・・』
『組長、逃げられました・・・
あの忍が撃つ前から逃げる準備を整えていた様です。』
『・・・・・・仕方ありませんね。我々も退くとしましょう。
どうせ、この城下はもう終わりです。我々の役目も果たしました。』
『ハッ。』
ヴンッ!
『・・・・・・この私に刻印の力とは言え、袖を穢すとは・・・・・・
ベルビオスの血・・・侮り難し・・・ですか。』