ACT.131 疑念・一
「・・・ソーライト事件。
ヒルダンテスが首謀者というのはここに居る皆も知っています。
しかし、あの男がどうやってソーライトに潜り込んだのか、知っていますよね?」
「は、はい。
あの男がソーライトの大臣位に就いたのは約3年前です。」
「・・・3年前・・・
(姉さんが総師範に就任し、
ローテルダムとトルレイト間での対戦が勃発した年か。)」
「凄く突然な話でした・・・・・・
あれ・・?どういった経緯だったのか・・・」
「・・・思い出せないんですか?」
「は・・・はい。」
「・・・・・・・・・。」
メノウに合図を送る。
「―――少し調べましょう。
リサさん、少し目を閉じてください。記憶映像化魔法を使いますわ。」
(何だよ、それ。)
(昔の映像を呼び起こすのよ。それを映像化するの。
でも、対象者がその魔法を受け入れないと映像化出来ないのよ。)
ちなみに精神系の魔法であり、さきほどのローテルダム奪還戦直前に
城下町を覆っていたダミー映像も一部分がこの系統に含まれている。
「“目醒めよ、過去の封印、全て、晒し、陽の元に”。リメイン。」
ギュンッッ!
「――――――精神索敵開始します。」
尚、この間もリサは覚醒している。
だが、精神がこの魔法を受け入れている為、何ら苦痛は無い。
「・・・・・・どうですか、メノウさん。」
「・・・映像がロックされています・・・いえ、事実が存在しません。
やはり・・・記憶操作されていますわ。」
「ヒルダンテスにッスか?」
恐らくは、と答えて続ける。
「推測での話になりますけれど、ヒルダンテスはソーライトに潜り込む前から、
国王などの上層に接触し徐々に記憶の中にあたかも自分が以前より大臣として、
存在していた事を植えつけていたんでしょう。
自分の名と顔と役職を自分が接触し始めた時期からの記憶に刷り込ませたんですわ。
ただし極端な話で言えば『10年前から居た』としてしまうと、
その対象者が奉職していなかった可能性もありますから、
その辺りの調整もかなり綺麗に行なっていますわね。リサさんが奉職されたのは何年前ですか?」
「4年ほど前です。」
ならば、事前情報としてソーライトの事を知り得た時期に記憶内部で遡り、
そこにヒルダンテスという大臣のデータを植え付けた。
ただし、その就任に関わる事などを違和感なく透明にし、
居る事が当然であると言う認識にさせた―――
「ただし、王族やそれに関わる人間以外の、
いわゆる大多数、民衆にそこまで厳密な記憶操作は出来ませんわ。
ですから、自分が一番最初に接触した時期からの記憶を植えつけた。
それによって、リサさんもそれ以前の経緯が全く分からないのですわ。」
「なるほど・・・それでは、ヒルダンテスが魔人である事以外は、
結局の所分からないという訳か・・・」
「すみません・・・」
「いや、リサさんが悪い訳じゃない・・・
・・・もう1つ、いいですか?これなら事後記憶ですから分かるでしょう。
・・・ソーライト事件の首謀者はヒルダンテス・・・協力者はいましたか?」
「―――――――――。」
リサの表情が曇る。だが、言葉を紡ぐ。
「協力者は議会内部には居なかったはずです。
居たのは軍部―――ロックハートさんを除いた
ソーライト騎兵隊対魔族専任剣士隊の本隊50名全員です。」
これでロックハート・クラウンによる50人斬りの話が確定的になった。
「・・・・・・隊長から聞きました。
スワン・ホーゲルがそうであると・・・そしてその男だけは生き残った。」
「はい。
私はもちろんの事、ロックハートさんも驚いておられました。
あの人が仕損じる事なんて一度もありませんでしたし・・・
贔屓目に見てもロックハートさんの方が彼より強かった。」
だが、生き残った―――。
唯一、劣っていたとすれば魔法の対処だったのだろう。
延命処置を崩せなかった事で完全な死には至らしめられなかった。
「あれ?
どうして、ソウジさんが知っているんですか?私たちは初耳ですよ。」
「隊長が戦ったそうだ。
僕らと合流する前日に国王を殺したという魔人の女と共に来たと。」
「あのクソ女と!?」
「・・・まぁ、待て。
スワンを仕留められなかったのは、
手に入れたばかりの刻印の力を上手く扱えなかったからだろう・・・」
「・・・・・・何か言いたそうやな、ソウジさん。」
「「え・・・?」」
つーか、お前も居たのかよ、エセ忍者。
「いや・・・・・・
僕はただ・・・・・・蒼空の刻印のシルフィードが話した事が、
本当に真実であると信じていいのか、分からないんだ。」