ACT.133 後生
2時間後 深夜
「クリス、毛布持って来たよ。
夏だけど、夜は結構冷えるからねー。」
「あ、リノン。ありがとう。ちょっと静かにしてね。」
「・・・って・・・・・・ウソォ・・・・・・
ロ、ロックハート君がちゃんと寝てる・・・しかも膝枕て・・・」
色んな意味で凄い状況。
「私も驚いてるんだよ。
この人って全然隙を見せたことなんてなかったもの・・・」
「安心したんだね・・・」
「うん・・・ずっと心配させてて・・・
ホントに私ってダメな王女だなぁ・・・」
「・・・・・・それは―――」
違うんじゃない?
「え・・・?」
「ロックハート君は信じた人の為ならどこまでも戦っちゃう人だっていうのは、
この数日間でも良く分かってるからね・・・リサさんだって同じだと思うよ。
クリスの事を信じていて、本当にいいお姫様で、
いずれはソーライトを引っ張っていける人だって思ってるから、
半年もの間・・・諦めずに捜していたんじゃないかな。」
「―――――――――そう・・・かな・・・」
「ロックハート君は・・・クリスの事をずっと守るとか言ってない?」
「――――――うん・・・言ってくれた・・・」
「なら・・・」
何があっても、何が襲い掛かってきても裏切らないし守り抜く。
「きっとね・・・
いや、絶対にソーライトの人はみんなクリスの帰りを待ってる。
ロックハート君って言う事ややる事は確かにキツイかもしれないけど、
心根じゃ人の心を守ろうとしてくれる優しい人だと思うんだ。
・・・だから、好きになっちゃったんじゃないの?」
「!―――――――――。」
初めてかもしれない。違う、初めてだ。
自分が抱く、ロックハートへの気持ちを、好きな理由を言い当てた人は。
「うん、そうだよ。すごく優しい人・・・
・・・そうだね・・・・・・ただ、1つだけ間違いがあるよ。」
「?」
「“大”をつけて、大好きにしておいてね。」
「―――――――――う、うん。」
こっちが赤面するぐらいハッキリと言った。
この度胸は十分に王たる者だと思うけれど、
年頃の女の子なんだからちょっとははぐらかして欲しいかもしれない。
「そうだ、リノンは好きな人とかは?」
「・・・ハイ?」
お約束的展開。
「キッド君は違うの?」
「イヤ・・・何でそーなんのよ。」
「だって、気付いたら絶対どっちかが隣にいようとしてるから。」
「た・・・タマタマだって!
どっちもそんな気ないから!うっとーしーだけよ!」
「・・・うっとーしーだけで・・・
・・・でも、嫌いでは無いんだよね・・・?」
核心突いた。
「あ゛・・・う・・・・・・それは・・・その・・・
アイツは・・・それなりに私の事気遣ってくれるから、
そんなヤツに嫌いとか面と向かって言えるわけないし、思えないわよ・・・」
「あは、焦っちゃってー。リノンってカワイイね。」
「もう、こっちは華の女子高生なのよ!
早々自分の気持ちをサラッと言えるモンですか。
とにかく、テキトーな時間になったらちゃんと部屋に入ってね!
一応、2つ部屋は用意してるから、お好きな使い方でどうぞ、だって(笑)」
「――――――――――――ッ!?!!?」
「カワイイのはそっちだね。
冗談だよ、冗談。じゃ、明日ね。」
タタタッ。
「もう・・・・・・」
「・・・ったく・・・五月蠅いものだな、女同士の会話は。」
ザ・・・ッ。
「お・・・起きてたの・・・?」
「あぁ。お前ら2人の会話の最初から最後まで全部筒抜けだ。
まぁ・・・内容は忘れておこう。」
「・・・あう・・・・・・」
やってしまった。そもそも1年近く、隙を見せなかった人間が
どうして今更それを見せるというのだろう。
その辺の考え方自体、間違いだった。
「――――――その・・・忘れてくれるんならいいケド・・・
その・・・えと・・・ね、ねね・・・」
「?」
「寝る時は・・・別々で・・・お願いします・・・」
「は・・・・・・?あ、ああ。それはもちろんだが・・・」
「そ、そうだよね!
うん、ホントにリノンって何言ってるんだろうネ。アハハハハ!」
同刻 3階東廊下
(カヴィスには・・・刹刺閃は効かない・・・
・・・恐らく姉さんが当てたのは最終奥義ではなく、姉さんのオリジナルだ。
あの右半身に当てる連続二連撃の痕がそれを物語っている。
しかし、あの姉さんでもそれを破られ・・・・・・・・・)
ギッ・・・・・・
(今の僕では到底、どちらにも敵わない・・・・・・
ユーリケイルでは時間が無かったから言い出せなかったけれど・・・
・・・神刀流最終奥義の伝授を速く・・・)
ドクンッ。
「ッ―――――――――。」
ゴボッ・・・・・・!
「・・・・・・く・・・・・・ッ。」
「ソウジ・・・・・?」
「―――――――――!!
(リカードさん・・・――――――!)」
この人相手にごまかしは難しい。
慎重に行かなければ気付かれる。
「姫の警護の交代に来るのが遅いから来てみたが・・・・・・・」
「スミマセン、それより――――――何ですか・・・?」
「・・おい・・・」
ダメだ――――――
「はい?」
隠し通せる訳が無い。
「・・・・・・その血の匂い・・・・・・今・・・吐血したな・・・」
「吐血・・・ですか?」
「私にそんな嘘が通じる訳無いだろう!一体何があった!?」
ガシッ!!!
「・・・・・・・・・」
「答えろ!ソウジ!!
お前の姉の親友として黙ってはいられない!」
「た・・・大したことじゃ・・・」
「ッ――――――もういい、身体自体に聞くまでだ!」
服を無理矢理捲り上げる。
「・・・これは・・・・・・この呪印は・・・・・・ソウジ・・・」
腹に5本の刺し傷とそこから生える様に広がる黒と赤の紋様―――。
その一つ一つに呪いが込められている。
触れる事も躊躇えるほどに眼に見えて禍々しい。
「・・・・・・・・・鬼に・・・・・・やられました。」
「!
・・・なら、速く来い!メノウなら解除魔法を良く知っているし、
例え完全に解けなくても緩和することぐらい」
「お願いです・・・・・・今はまだ・・・!」
「バカな事を言うな!!呪術の恐ろしさは知っているだろう!」
「分かっています・・・
・・・けれど・・・誰にもこのことは・・・!」
「ダメだ!言っただろう!
私はカエデの親友だと!メノウも同じだ!」
ガしッ!!
「―――!ソウ・・・ジ・・・・・・・・・」
「・・・リカードさん・・・・・・頼みます――――――」
ヤツを殺すまでは死なない。
死ぬつもりなんて無い。だから、事を荒立てたくない。
「・・・・・・・・後生です・・・・・・」
「――――――――――――ッ・・・分かっ・・・た・・・。」