ACT.136 同族嫌悪
「あなたも素直じゃない人ですねー。
そんな風に言わなくてもいいじゃないですか。」
(で、オマエはストレートに言うのな。)
(お前とロックハート以上にヒドイ対照関係だな。)
「まぁ、いいですよ。
身体全身が左右反転していたというのなら、恐らく―――」
全員がイライラしているのを分かっていてタメている。
本当に性格が悪い。
「2つの交わる事の無い空間を繋ぐ“門”を通って来たからです。
それも、酷く無理矢理な方法で。」
「・・・酷くなければ、反転しないと?」
「ええ。しないでしょうね。
自然的に発生した門や道ではなく人為的に造られた物に引き込まれ、
それの反作用によりそうなったんでしょう。」
正規の方法・ルートではなかった。
人為的、自己的な開門はその律を乱していたという事だ。
乱された律は潜るものを戒めた―――
それが身体の反転だったという事なのだろう。
「そんなものが人に作れるのか?」
「・・・重力場の一点もしくは狭範囲への極限的負荷・・・ですわね?」
「その通りです。ある一定の空間に対して、
通常の重力の何百倍もの力を加えると空間が歪みます。
その歪みが三次元、四次元に働きかけを持って空間同士を繋ぐ門を開いてしまう、
というのが、ワームホールだとかブラックホールだとかのお話、
ひいてはパラレルワールド理論へとつながっていたりするわけです。」
「何や、過程の話ばっかりやな。
まぁ、理論上の話やからしゃーないけど。」
重力場の極限までに発生させた区域には
ブラックホールらしきものが発生したという研究結果は残っている。
だが、その中に入った事や何かが出て来た事は無い。
故に理論上、机上の空論止まりなのである。
「・・・シンさん。」
「何ですか?クリスティーナ姫。」
「その・・・さっき、ロックと同じ様な人が別の世界にいると言っていたけれど、
それは、身体が反転しているその異世界の人と
同じ人がこの世界にもいるという事も有り得るんですよね?」
時代が合っていれば、可能性として十分に有り得る。
もっとも、パラレルワールドがあるのであれば、だが。
「その・・・同じ存在の人が会うとどうなるんですか?」
「・・・そこまでは幾ら僕でも分かりませんよ・・・
まぁ、でも仮定は示せます。
ドッペルゲンガーと言うのを知っていますか?」
「えっと・・・」
「瓜二つの自分に会うと死ぬとかなんとか・・・って・・・」
「はい、それですよリノンさん。
僕はドッペルゲンガーは正にパラレルワールドの住人がこちらに、
もしくは向こう側に紛れ込む事によって起こり・・・」
(別世界に行くと言うのは神隠しのようなモノだな・・・)
「ドッペルゲンガーに会うと死ぬと言うのは“同族嫌悪”で証明出来ると思うんです・・・
つまり、自分と似たような者を憎み、殺そうとする・・・
双子だとかは自分とは違う存在だからそんな事は起こりえないけれど、
精神の段階で全く同じ者がいたら凄く嫌でしょう?
まぁ、戦争はこういった所に根付いているとも言えるんですけどね。」
「・・・それが・・・同じ人間同士が会うと何が起こるんだよ?
ホントに殺し合いになったりするのか?それだけで済むのかよ?」
「―――――――――へぇ・・・怖い事に気付きましたね、キッドさん・・・
いいですよ・・・答えましょう。」
「「「「――――――――――――。」」」」
一瞬の間が出来る・・・
「アハハ、実はですねー、
ホントにそこまでは分からないんです。」
(コノヤロウ・・・・・・)
(キッド・・・今初めて本気で殺意芽生えただろう。)
「すみませんね。それより・・・」
ザッ。
「なっ・・・?!」
「ちょっ・・・
ど、土下座・・・!?」
今までの笑顔も軽さも全て消え、
これが本当のシン・ヤマザキの気配・姿なのだと物語っている。
「これまでのわれわれ閃迅組の行動―――許して頂こうとは思いません。
ただ、ラゥムの暴虐を浮き彫りにさせ、確実に捕らえる為の演技でした。
しかし、僕ら閃迅組にはラゥム直属の監視者がおり、
直前、監視が離れるまで、クライセント隊長・・・
そしてあなた達に事を話す事が出来ませんでした。」
「・・・・・・監視者というのは、あのローブの男だね。」
「ええ。
奴はローテルダムへ帰還する際に殺しました。」
「魔道砲を撃ったのは閃迅組だね?
わざわざ殺し辛い方法を取っていたから気になっていた。」
「ええ。
ラゥムに勘付かれない程度に・・・しかしコーデリア姫には」
「もういいっての。
変に言い訳がましいことすんなって。」
「!」
「要はオメーらは俺らに直接言いたかったけど、それは監視者がいたから無理で、
そんでワザと一対一で戦ったりしてヒント出してって、
隊長にギリギリで教えたりしたんだろ?こっちも大体、分かってるって。
ただな・・・」
――――――――――――。
「オマエ、刀代は弁償しろよ。」
!?
「え、ええ・・・構いませんけど・・・
でも、今持ってるものの方が圧倒的に良いじゃないですか。」
「何だそれ?
今が良けりゃ帳消しってか?」
「ちょっと、バカ!アンタ最低ね!
何よ、見直したのに即行で見損なったわ!」
「誰がオメーに見直して欲しいとか思うよ!バーカ!」
(あわわ・・・お約束のコースへ一直線だョ。)
(ホントに仲が良いんだなぁ・・・良いなぁ、ああいうの・・・)
クリスさん・・・それはちょっとどうかと。
「と・・・とにかく!ロックハート、オメーももういいよな?
魔物に殺された人たちには申し訳ねーけどよ。」
「・・・ああ。
その真剣な眼を見て、殴る気も失せた。」
「それは良かったです。
いやー、殴られるなんてホントイヤですからねー。
やられたらやりかえすのが僕の主義なので血みどろにならずに済んで良かったです(笑)」
「――――――――――――やはりこいつは殺」
「ちょっ、止めろって!俺だって限界ギリギリだけどさ!
弁償とか、そういうのはもういいと思ってるからさ!
だから、お前もちょっと止めような?な?」
「一発だけ斬らせろ。腹でも何でも良い。
致命傷になるのならそれで構わん!」
「いや、だから止めようって!」
ガタガタガタガタ!!
「なーんだ、ロックとキッド君て気が合ってるんだねー。
真反対な性格だからダメかなーって思ってたんだけど。」
「クリス・・・
もしかして、天然ボケ・・・?」