ACT.142 氷ヶ姫


「私の名前はサラサ・ハルダイト。
 命の恩人である君の名前が知りたいわ。」

「い、命の恩人て・・・」

「助けてくれたでしょ・・・?
 まぁ・・・殺したのは私だけど。」

「いや・・・
 そりゃ・・・・・・そうだけど・・・」

目では終えたが、凄まじく無駄の無い斬撃。
血も殆ど出ず、ただ倒れているだけに見えるが、本当は死んでいる。

「・・・・・・何も・・・殺す事はねーだろ・・・」

「?
 何か言った・・・・・・?」


ザッ


「動かないで下さい。」

リサが一歩前に踏み出る。

「・・・?」

「・・・あなた・・・
 ・・・ハルダイトと言いましたね・・・?」

「あら・・・どこかの忍かしら・・・?
 いや・・・その軍服、ソーライト騎兵隊の上層ね?」

リサは答えない。
肯定の意味もあるが、必要以上に言葉を交わす必要は無い。

「・・・・・・キッドさん、離れて下さい。
 彼女は・・・・・・まだ、敵という認識から外れない存在です。」

「・・・へ・・・?
 って・・・・・・その服・・・うわ・・・あぁ?!」

一歩、二歩と後ずさる・・・ようやく気付いた。
というより、最初から分かっていたがサラサ・ハルダイトの空気に飲まれていたようだ。

「トルレイトの軍服・・・
 でも・・・どういう事よ・・・味方を倒すなんてまるで・・・」

「そ。
 私は脱国者・・・つまり、彼らにとっては裏切り者よん。」

緊張感が無い―――
楽天的というか、今の自分の状況が不利であるとは微塵も思っていない様子。

「・・・掴んでいた情報は正しかった訳ですね。
 しかし・・・・・・こうさせて貰います。」


シュパッ!


「・・・水の手錠を気軽に作れるなんて、中々面白いじゃない。
 やるわね、あなた。上は上でも王家直属の何かの部隊の人間かしら・・・」

容易には外せない水の鎖。
水の鞭のような剣、アクアスティングの応用だ。

「・・・・・・取り合えず、事情聴取です。」

「こんな姿じゃイヤよ。」


      パ          ンッ!!

「・・・!
 (私のアクアスティングを・・・)」


魔力だけで崩壊―――

魔法に対して魔力で対抗して、
上手く行くのは相当な力量を持った魔術師か
紅の刻印のような膨大な量を持っているかのどちらかだ。


「大丈夫よ・・・
 君に誓って、この国に何もしないコトを誓うわ。
 だから、そんなモノは野暮って訳。いいかしらん?」

「・・・・・・仕方ないですね。」

「あら、聞き訳がいいじゃない。助かるわ。」


カツッ。


「そうだ、名前は?まだ聞いて無いわ。
 別にファミリーネームはいらないから。」

「キッド・・・だけど・・・」

「・・・キッド・・・良い名前ね。」


チュッ


「・・・・・・・・・」

「「・・・・・・・・・??!」」

「感謝の気持ちよん。
 それにちょっと・・・好きになったかも・・・」

「う・・・あ・・・・・・あぁああ・・・?」

「な・・・・・・ぁ・・・・・・ッ!!!!
 あ・・・あなた・・・何を・・・!キッドに何してんの!?」

「いいじゃない、減るもんじゃなし。」

・・・きっと何かは減っている。
口じゃなかっただけ・・・マシだったのか。





30分後 総隊長室

「なんだ、ヒルダンテスのこと知ってるんだ。
 じゃぁ、単刀直入に言ってあげるわ。
 今のトルレイトを動かしている裏の支配者はあの男よ。
 てゆーか、全部の黒幕はあの男って言って過言じゃないでしょうねェ。大なり小なり。」

「・・・・・・そうなのか。
 (・・・信用していいのやら・・・)」

流石のクライセントも困惑しきりである。
脱走してきたというのに、この悲壮感の無さは一体何なのだろう。

「あら、不満そうねェ・・・総隊長さん。
 金髪、長髪の黒尽くめで背の高い男でしょ?」

「・・・ソウジ君、それは合っているか?」

「ええ。
 間違いありません。」

「・・・・・・あら・・・
 あなた・・・カエデじゃない・・・?」

唐突にサラサが言うが、

「!
 姉さんを知っているんですか・・・?」

「って・・・何だ、男か・・・」

声を聞いて違うと判断。

(って、先輩に確認取ってた会話、聞いてねーのかよ!)

(かなりマイペースな女やなァ・・・美人やけど。)


「まぁ、その話は後にして・・・
 ・・・キッドとそれから、そこの緑髪のボウヤ。
 魔力を感じ取って分かったわ・・・私と同じくこんなモノ・・・持っているでしょう?」

サラサが右手を上げ、手の甲を見せる。

「!それは・・・!」

「刻印・・・!」


海色の刻印―――


「ってか、光った・・・!」

「・・・こんな狭い範囲に3つもの刻印と石が1つや2つあれば、
 共鳴してもおかしくない・・・・・・女、いつ、その刻印を手に入れた。」

「厭な呼び方するわね。」

「チッ・・・
 ・・・いつ手に入れた、サラサ・ハルダイト。」

「・・・・・・。
 ちょっと生意気すぎない・・・?あなた。」



チャキンッ!!        ザッ!



「・・・・・・・・・へぇ・・・・・・速いわね。」

長い髪の毛が僅かに散る。

「・・・・・・女・・・あまり嘗めていると、殺すぞ。
 貴様は事情聴取を受けている身だ。
 聞かれた事に答えれば良い。“その刻印をいつ手に入れた?”」