ACT.144 魔人の名


「これで信用してくれないんだったら、
 早々にこの国を立ち去って一人で行動するしか無いわね。面倒この上ないけど。」

・・・・・・・・・信用するとかしないとかじゃなく、
一方的のような気がする一行。

というか、面倒この上ない、をやたら強調しやがったあたり、
どっちにしてもここに居座るのは間違いない。

「・・・俺は信じるぜ。」

「キッド・・・?」

「態度はでかいけどよ、目を見りゃ分かるじゃねーか。
 嘘はついてねェって。」

ゴメンなさい、そんな表現書いてませんでした。

「・・・あんた、まださっきのアレから抜け出て無いとか?」

「バッ、バカ!何言ってんだよ!」


さわ・・・・・・


「へ・・・・・・?」

「本気で気に入ったわ・・・
 ちょっと色々手を出そうかな・・・くす・・・」

「「んなぁ・・・・・・っ!!!」」

(リノンさん、ピンチですわね。)

一番楽しそうなメノウさん。

(ちょっと悪い気はするけど・・・
 ここで前に出なきゃ、女じゃないですよね。)

結構乗り気なクリス姫。

(女の戦い勃発の予感だョ☆)

お前は楽しけりゃいいんだよな、コーデリア。





「なるほどねぇ・・・あの男も持ってるのね。
 しかも、ここ数年の各国の異常なまでの政権交代、内紛、大戦、エトセトラ・・・
 それもあの男の手の者の仕業と考えても間違いないのね。」

「・・・ヒルダンテスは魔人・・・つまり、魔界と契約をした元・人間だとの事だ。
 あの男の出身地はトルレイトと考えてもいいのか?」

「さぁ、そこまで知らないわよ総隊長さん。
 ただ、あの男が大臣クラスになって、
 トルレイト内部にだけ名前が広まったのが、6年前よ。
 その当時から“ヒルダンテス”って名乗ってたけど、それは魔人名でしょ?」

「「「魔人名?」」」

「魔人となった人間が、
 人間時の名を捨てて新たに名乗る名の事ですわね。」

魔人になる者は皆、何らかの理由で人間界に絶望し、
新たな存在として確立する為に名を改めるという。

「俺と戦ったスワン・ホーゲルは・・・カタルカスとか名乗ってたな。
 というコトは、ヒルダンテスという男にも人間時の名があるという訳だな。
 それがもし分かれば、相当な事が判明するだろう・・・
 ・・・ソウジ君。ヒルダンテスは武芸一般に長けているのか?」

「・・・・・・刻印の力を使っていましたから、どうとも。」

「奴は剣術はあまり使えん。
 代わりに刻印の力以外にも強力な魔法を使う。」

ソーライト城での戦い。
長期戦闘だったのか、ロックハートは相手の手の内を知る事が出来ていた。


「・・・つまり・・・」

クライセントが少し落ち着かないのか立ち上がる。

「ヒルダンテスは魔術士か・・・加えて、一国を支配出来る程の頭脳にも恵まれている。
 となると・・・典型的な文官型の可能性が高いな。
 リカード君、メノウ君、大図書館でこの10年の間に行方不明または死亡した
 有名もしくは噂になった魔術士や政治家、貴族、王族を今出来るだけで構わない。
 リストアップしてくれないか?」

「あ、私も手伝います。」

「それじゃあ、リサ君も頼む。」


ザッ!


「流石、噂に名高い“紅錬の槍”ね。
 トルレイトじゃ、ブラックリストでSクラス入りしてるわよん。」

その個人用リストを見せてみる。

「ハハハ。これは嬉しくない事だな。
 それより・・・サラサ君。君の事を聞きたいんだが?」

「・・・・・・・・・そこの2人のボウヤ(ソウジとロックハート)といい、
 あなたも隙が無さ過ぎて厭ね。」

(キッド、「アンタって隙だらけ」って言われてる様なモンよ。)

(う・・・うるせぇ・・・・・・)

自分で微妙に分かってるから大きく言えない。

「こっちが持っている情報を可能な限り提供したんだ。
 君がローテルダムに力を貸してくれると言うのなら、
 君が逃亡した理由も聞いておかなければ同行出来ないし、
 俺の隊長権限でそれを許す事も出来ない・・・」

「・・・・・・いいわよ。
 私が国を出た理由を話し、あなた達に最後まで協力する。
 代わりに1つ・・・取引よ。“トルレイト上層部を抹殺する”事を。」

「「「な・・・・・・!」」」

「・・・そうしなければならないから、私は逃げてきたのよ。
 国の現状を知る私から話を聞けば、否が応でもそうしたくなるわ。」

「し、しかし・・・
 我々がそれに関与しては、戦争以上の―――」

「人に聞いたのなら、最後まで黙って聞きなさいな。」