ACT.145 偽善
「・・・とは言っても、最初に質問ね。
あなた達の抱く、トルレイトの印象は何?」
「何・・・って言われても・・・」
面と向かってそう聞かれると、言い難い事ばかりだ。
「世界有数の大国で、戦争しまくりで・・・」
「国民皆兵・・・・・・全ての国民が戦争に参加し、命を捧げる・・・
加えて、国民は国民でそれに非を唱えるどころか・・・以下省略でいいですか。」
「・・・まぁ、それは正しいわね。
でも、中身は考えてるより酷いわよ・・・」
カツッ。
「3歳から始まる洗脳教育。その基本的概念は“国に命を捧げる事”・・・
そして“総統が決定した事が正義”であり“他国のトルレイトへの攻撃行動は悪”。
・・・子供心には十分に浸透出来る至ってシンプルな考えでしょ。
要は自分たちだけが完全な正義・・・それだけ・・・・・・」
今まで強気だったサラサの眼が、わずかに震える。
「そう教えられているが故に・・・国に対する奉公は究極の人生であるから・・・
自分たちは飢えをも覚悟で生産物を限りなく国に捧げるのよ・・・
そして、それを上層部も分かっているから、更に酷い徴税・・・
それでも人々は何の疑念も持たない。国が正義だから。」
「「「―――――――――。」」」
「・・・私は・・・上級士族―――トルレイト家の一人娘でね・・・
それなりに満たされた生活を送っていたから、彼らの事なんて全く分からない。
けれど・・・やっぱり、許せないのよ・・・・・・」
ギッ・・・
「何も分からない小さな子供まで、そんな事に巻き込まれて・・・
それらを苦しめる上位層と・・・何の疑念も持とうとしない大人・・・!
他国の非戦闘員・・・民間人を兵器で笑いながら殺す兵士・・・・・・
それらをどうやって正そうかと思った時にこのコと出会ったのよ。
このコが他に目覚めている仲間が居るって言ったから、今日まで探してね・・・」
「・・・そうなのか。」
「正す・・・ってどういう風に・・・?」
「・・・・・・言ったでしょう?上位層を全て抹殺するのよ。」
「「「――――――!」」」
だが―――国の状況を正すのであれば、
極論、それが最も正しい手段ではある。
「・・・・・・偽善者だな・・・」
「ロ、ロック・・・!?」
「―――どういう・・・意味よ・・・」
ザッ
「分からんか・・・言葉通りなのだがな・・・・・・・・・お前は言ったな?
“彼らの事なんて全く分からない”と・・・
・・・そんな人間が実情を真に知ろうともせずに力だけ手に入れて、
正義の味方気取りで民衆を助ける・・・か?片腹痛い・・・」
「おい、お前・・・!」
「女。貴様の言いたいことは分かってはいるし、崇高だ。
だがな・・・お前は力を手に入れて、
それを使ってただ目を背けたかっただけじゃないのか・・・」
「違う・・・私は・・・!」
「真に助けたいという心があるのなら、
どうしてその力を持って特攻でもしてみせない。」
「ロック!そんなひどい事を言うなんて」
「黙れ!!」
ザァッ・・・!!
「正義を吐くのは大いに結構。
だが、何の行動もしていない貴様に誰が賛同するか。」
「テメ、ロックハート!!
今、サラサは動いてるじゃねェか!」
「動いている・・・?よく言うな・・・
この女は俺達を体よく利用し、事を運ぼうとしているに過ぎん。
それが能動的な行動だと言えるのか、キッド。」
「―――――――――ッ。」
「・・・悪いがな、俺の目的はシリアを守り、ソーライトを再建する事と、
ヒルダンテスをこの世から葬る事・・・この2つだけだ。
お前のように広く浅い正義の味方など俺は掲げる気が無いんでな。大体」
パァンッ!!
「・・・・・・。」
ロックハートを叩いたのは―――リノンではなく―――。
「姫・・・!」
「・・・あなた、そんなに小さい人だったのね。見損なったわ。」
「・・・・・・・・・」
「私の前でだけ強いところを見せてみて、
本当に困ってる人をを助けようとして・・・戦っている人が・・・
目の前に居るのに、どうして一緒に!」
「(・・・まずいな・・・論点が完全にズレている。)
と、取り合えず今日はここで」
「ダメです、ソウジさん。まだ、止めないで下さい。
ここでちゃんと言わなければ、ロックハートは勘違いし続けます。」