ACT.147 刹那


「・・・何ですか、サラサさん。
 後をつけるような真似をして・・・」

ザッ

「・・・別に・・・
 怖いぐらいにカエデ・イムラと似てると思ってね・・・」

「姉弟ですから・・・
 まぁ・・・よく顔立ちは女っぽいとは言われますけど。」

「そう云う事じゃないわよん。
 (・・・・・・この子・・・・・・)」


先ほどとは違って、敵意が見え隠れしている。

ロックハートは単なる嫌悪に近かったが―――
このソウジ・イムラは別だと感じ取れる。


「・・・いい加減、その右目の下の二本傷・・・
 晒してもいいんじゃないんですか?」

「あら・・・よく分かったわねェ。メイクばっちりだったのに。」

指で擦ると僅かにその傷が見える。

「・・・その傷について聞きたいことがあるんですよ。」

「もし、あなたがカエデの復讐を目論んでいるのなら、
 犯人は鬼族のトップを探せばいいわ。」

「――――――!」


やはり、知っている―――。


「2年前の戦争でしょ?
 カエデの事を看取ったのも私なんだから。」

「な・・・!じゃあ、奴を見たんですか!?」


ガッ!


「ええ・・・てゆーか、離して・・・」

「!――――――・・・」

見た目落ち着いたが、眼は――――――血走っている。
眼に見えた形でのそれではなく、深奥で真紅が渦巻いている。

「・・・・・・私とカエデが3度目の戦闘をしている最中にやってきてね・・・
 1度目は私が勝って、2度目はカエデにこの傷を貰っちゃって、
 3度目のあの日に決着をつけるつもりだったけれど、邪魔が入ったのよ。
 流石に魔族が来たから、しかも鬼族だから私たち2人で協力して戦ったんだけど・・・」

「・・・・・・。」


そういえば、姉はトルレイトの上級士族と2度戦闘したと言っていた。
それが、このサラサ・ハルダイト。



イムラ一族とハルダイト一族―――
始まりこそイムラ一族は数百年とさえ言われる歴史を持つものの、
古い武家としては非常に名高い。

故にカエデとサラサが対峙したように、
祖母・ミサトもハルダイト家の4代前とは因縁があるらしい。
ただ、不思議な事に互いに私怨は無い。

信じた王の為に使え戦う武家の者だ。
それ同士をぶつけ合う戦いに邪念など必要ない。

ただ―――その中に生まれた異質・・・
サラサは国を裏切り―――ソウジは私怨に燃える―――



「・・・・・・名は・・・言ってなかったのですか・・・?」

「確か・・・・・・カヴィスよ。」

(やはり・・・)

「キミ・・・カエデの仇・・・つまり、カヴィスを追っているようだけれど、
 そんな傷を受けておいて、まだやる気・・・?」

「!」

「カエデは同じ術でも、もっと強力な魔力で撃たれてね・・・
 彼女を守る為に私もあの鬼と戦って、
 何とか追い払ったんだけど・・・無理だったわ・・・」

「・・・・・・そうですか・・・
 ・・・しかし、どうして敵軍の兵士を守ろうと・・・?」

「・・・・バカね・・・・・・私は剣士として決着を付けたかったのよ。
 横槍を入れられて、それで向こうが死んだら五分五分のままで勝負着かず。
 そんなの消化不良で厭じゃない。まぁ・・・結局、勝負ついて無いケドね・・・」

「・・・・・・もう1つ。
 僕と姉さんの何が似ていると・・・?」


「・・・・・・さぁ・・・自分で分からない・・・?」


         カツッ


「・・・・・・キミの強さは・・・カエデに似て刹那的よ・・・
 そんな強さと憎しみだけで戦うようじゃ、仇を討てても・・・死ぬわ。」

「―――――――――。」

「悪い事は言わないわ。
 復讐するなとは言えないけれど・・・
 せめて、自分が何を残して来れているのかを振り返れるように生きなさい。
 じゃあ、1時間後にね☆」



 ザァ・・・ッ



「―――――――――・・・・・・確かに・・・偽善者だな。」