ACT.148 答え


1時間後

「これはまた・・・
 メノウさん達、凄い量を集めてきましたね・・・」


どっさりと詰まれた資料の山。
その割に埃が被っていないのは司書であるメノウが
常に保存を心掛けている賜物だろう。
探し当ててくれた、メノウ、リカード、リカはまた戻っていった。


「10年に失踪もしくは死亡した各国上層部の人間のリストか・・・
 多いのは戦争が原因・・・一国滅びれば確実に十数人は消えますね・・・」

消える―――というのも、
戦死だったり、戦犯として処刑されたり、色々だ。

「なーんだ、嗜好まで調べ上げてるなんて、
 ローテルダムも平和国家らしからぬコトは多少、やってるのねェ。
 これって全部、諜報部に作らせた資料なんでしょ?」

そういうトルレイト帝国はもっと酷いようだ。

「ああ。最高クラスの機密だが、今は細かいことは言ってられないからな。
 君達2人を信用して持ってきた。もちろん、この先の持ち出しは禁止だが。」

「で・・・?この中から、あの男を捜せって?」

「いや、既に彼女達が目星を付けてくれている。」

10数冊あるファイルの中身のところどころに目印が張ってある。

「・・・内務卿に貴族・・・年齢的にも大体一致しますね・・・
 顔はいくらでも変えられるでしょうけれど・・・」

「魔人って寿命が結構延びるんじゃないの?
 10年じゃアテになりそうに無いけど?」

「・・・通常の魔人は人間と然程寿命は変わらないだろう。
 特殊な術を使えば・・・と聞いているが、確かにあなたの言う通りかもしれない。
 けれど・・・見つけた・・・・・・」


ばラッ。


「これは・・・・・・」

「今はトルレイト領になってる旧アステライド王国の大臣ね・・・
 顔もかなり酷似・・・というか、髪を伸ばしたら本人ね・・・
 何よ、これ見よがしにこんなに持ってくる必要ないじゃない。」

それはそうだが、確認の為だ。

「名はヴァルス・ウィシャスト・・・7年前の失踪時で22歳。
 褒めるべきではないと思うが・・・凄いな・・・その歳で大臣とは・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ、それが分かってどうするワケよ。」

「彼の目的が分かるかもしれない。
 出身が分かっただけでも様々な事が推測出来ますし・・・
 確か、この国は・・・・・・
 経済危機によってトルレイトに売り渡された様なモノでしたね、総隊長。」

「ああ、そうだ、ソウジ君。
 我々も少しばかりあおりを食らったが・・・というコトは・・・」

「ええ。ヒルダンテスの策略によってトルレイト領となり、
 その見返りにトルレイトでの地位を獲得したと考える事が出来ます。
 その1年の前後で魔界と契約し名を変えたのなら道理は通っていなくも無い。」

「魔界との契約って言えば、何らかの能力に秀でていなければならないのよねぇ。
 一介の魔術士風情じゃ契約の術を使うことも無理だろうから、
 同じ時期に刻印も手に入れたってトコロかしら。」


魔界との契約――――――

禁術とされる魔法陣と自身の魔力、魂という不確定概念を捧げる事で、
“魔王”と呼ばれる者に服従する事を条件にして、
上級魔族クラスの力を手に入れる事が出来る。

何らかの能力に秀でている必要は、実は無い。
ただし、得意・特異なモノが無い場合は、
強力な魔法が使える程度の人間に納まってしまうのだ。
もっとも、それだけでも十分に脅威ではある。


「恐らく。」

「それにしても回りくどい男ねェ・・・刻印の力はこの世界を支配出来る程よ。
 なのにここまで行動に出てこなかったのはどうしてかしらね・・・
 ・・・やっぱり、他の刻印が目覚めるのを怖れたから・・・だけかしら。」

「・・・・・・超越した力を持っていたとしても、扱うのは人間・・・
 魔人といえども限界はあるでしょう・・・だから、他に使える駒が必要だった。
 その最初の駒となったのがトルレイトですね。」

刻印の力を派手に使えば、イヤでも目に付けられる。
それを避ける為に部下を用意し、彼らに事を起こさせる―――。

「トルレイトの中で地位を上げ、全てを操る事が出来る程になるまで耐えたのか。
 加えて、それだけの時間があれば刻印の力を手足の様に扱えるだろうし、
 様々な真実を知る時間も得られるという訳だな。」

その間に自身は必要なものを次々に揃えて行けば、同時進行が可能になる。

「ええ。そして、政治的手腕も磨き・・・
 ヒルダンテス自身で初めて手を下したのがソーライト・・・」

「7年計画・・・
 ホントに厭になりそうね。そこまでして何が欲しいのかしら。」

「・・・今欲しているのはプリンセスと呼ばれる鍵・・・石を持つ者・・・
 その先にあると思われるのは、全ての刻印を手に入れることだろうと踏んでいる。
 しかし・・・ずっと疑問なのが、奴がどうやって、
 プリンセスを間違いなく見つけ出せているであろう・・・という事なのが・・・・・・」


何人、彼の元に居るのかは分からない。

ただ、6つあるうちの4つが目覚めていると分かった今、
半数以上が既に手に落ちていると考えた方がいいかもしれない。


「・・・グラソンは姫の中にあると思われる石が分からなかった。
 姫はプリンセスの一人ではないのか、それとも本当に分からないのか・・・
 いや・・・・・・そうか・・・・・・」

「ソウジ君?」

「・・・第一次適合覚性だ。そこに答えがある。」