ACT.15 国弟ラゥム


翌日 アルファン

「うおー・・・やっぱ、町のレベル違うよな・・・」

レンガ造りである点はローテルダムのどの町とも変わらないが、
建築デザインが素人目に見ても洒落ていて、違うと感じさせる。

「そうだ!ここってチーム格闘技『クラッシュ』の競技場があるのよね!」

チーム格闘技「クラッシュ」。3対3で殴る蹴るの2つのみで戦い合う。
6人が同時に広いリングで戦う為、体力と知力を同時に使う非常に高度な格闘技である。

「・・・お前たち・・・・・・田舎者丸出しだぞ・・・」

「そーいやよー、去年から派手に出てるヤツ居ただろ?なんつったっけ?」

聞いちゃいねェ。

「クラッシュに革命を起こしたっていう『蹴撃の貴公子』よね。
 確かに顔はいいし、強いけどー・・・何か性格が良くなさそう。」

「だろー。あーいう、アイドル系ってのは大抵そーなんだぜ。」

まぁ、大概、そんなもん。

「おい。遊びに来たんじゃないぞ。」

「「・・・・・・つまんなーっ・・・」」

「(・・・まったくこの2人は・・・)分かった。修行開始は1試合見てからだ。」

「「おーっ!!」」

(・・・・・・先が思いやられるな・・・)


同刻 ローテルダム城 剣道場 「ほほう・・・・・・クライセント君。相変わらず、熱心だな。」 「・・・・・・ラゥム様。おはようございます。」 ラゥム・カー・ローテルダム。亡くなった前国王(コーデリアの父)の弟。 国弟(こくてい)と呼ばれている。 現在はコーデリアの祖父・・・つまり、前々国王が復職している。 「・・・どうされたのですか?この様な時間にこの様な場所へ・・・」 「・・・・・・小耳に挟んだのだが、先日のビサイド襲撃。  その際に何やらとてつもない力が魔物を倒したと・・・」 「・・・私もその様に聞いています。」 胡散臭い男だと正直に思う。話すことさえ不快感を覚える。 「・・・・・・・・・君、何か知っているのではないかな・・・?」 「・・・何をでしょうか。報告書は既にまとめて上に出させて頂きましたが。」 「・・・その文面を読んだ上でこうして聞いているのだよ。」 グッ・・・ 「・・・答えろ。何があった・・・?」 意外にも強く胸倉を掴まれた。 それが少し気になるが、掴まれること事態は大したことでは無い。 「・・・何があったと聞かれましても、私は何も知りません。部下の報告」 「ソウジ・・・イムラ。とか言ったな・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・そういえば、君の失」 バタンッ! 「あ・・・お、お話中でしたか・・・申し訳ありません!」 唐突に隊員が入ってきた。 「・・・チッ・・・まぁ、いい。だが、余り“我々”を困らせる様な事はするなよ。」 バンッ! 「・・・・・・・・・リカード君か。助かったよ。」 「いえ・・・・・・」 変装道具を剥がす。リカードの得意な技能だ。 「・・・気付いているのでしょう?彼の力に。」 「・・・ああ。その上でソウジ君に改めて聞いた。正直・・・信じられんがな。」 3日間の調べ物の間に来たのだろう。 「・・・姫の忍刀の私が申すのは余りに出過ぎた事と思いますが、どんな事があっても。」 「分かっているよ。私は部下や友を2度と殺させはしない・・・」 「違います。私が言いたいのは、迷う事無くあなたの思う様に動いて欲しい、と。」 「・・・・・・迷い・・・か・・・」 ギリッッ・・・ 「・・・そうだな・・・・・・」 そう・・・まだ、迷っている―――・・・ずっとだ。 「・・・・・・・・・(隊長・・・)」 「・・・例の件・・・念の為に連れ出す事にしたんだな?」 「ハイ。丁度、姫様が『クラッシュ』の試合に招待されていまして。」 「・・・・・・。話ではこの2、3日の間に厄介ごとが起こると・・・」 「しかし・・・信じていいのでしょうか・・・誰とも分からぬ者からの情報など・・・」 「・・・タレコミがある以上、楽観視は出来ない・・・それに備えて損する事は無い。  姫には君の他に5人つけよう・・・・・・」 「しかし、あまりにそれでは姫が」 「それ以上の護衛は逆に危険だ。どんなに私服を着ても兵士は兵士・・・  目つきで分かってしまうからな。だから、ソウジ君達だ。彼らは今、アルファンに居る。」 「・・・・・・何の用で・・・」 「修行だそうだ。例の物を扱いこなし、呪いを解く為と。」 「・・・なるほど。彼らに修行の一貫として付けろ・・・と。しかし」 「何かあった時か?大丈夫だ・・・ソウジ君が居ればな。それに・・・」 「・・・・・・あの方の御子息・・・でしたね。」 あの方―――スネイク・ベルビオス。 ローテルダムが存在する東大陸や南方の島々で構成された 東大陸及び南方諸島連合軍総司令官にしてローテルダムでも総隊長を歴任した大剣豪。 なのだが、キッドはそこまでの事実を知らないようだ。 知っていて、“そう云う風”に育っていたらもっとひねているだろう。 「・・・まぁ、彼の息子だから期待出来る・・・と言ってしまったら怒るだろうが。  不思議とな、彼の強い気迫に似たものがキッド君にもある。」 「・・・分かりました、それでは失礼します。」 「待った、リカード君。君の従弟を彼らにつけてやる事は出来ないか?  彼の情報網なら色々と知ることも、判断する事も出来るだろう?」 「最近里との連絡が取り辛いですが・・・なんとかやってみましょう。」 フッ・・・ (・・・国王派と国弟派の抗争が始まろうとしている・・・  思えば、カエデ・・・君は・・・その1人目の・・・)