ACT.16 ソウジとの修行


修行地の洞窟前

「「はぁあぁー・・・・・・・・・」」

「ま、世界平和の一貫として戦おうとしているのに
 目の前の私利私欲に走ろうとするからだな。
 もっとも、蹴撃の貴公子が出る試合に当日券で入ろうとする事自体が」

「「それ以上言わなくていいですから・・・」」

メインエベントが見れなかった。

「だが、他の試合は嫌なのか?」

「そりゃ、面白いんだけども、なんつーか・・・」

「そうだよねぇ・・・なんか、こう、ねぇ。」

(・・・話題性の問題だな。)

ざッ

「行程は1週間。宿営は神刀流のアルファン支部の道場だ。」

「「さすが、免許皆伝!」」

どこが流石なんだよ。

「褒めても何も出ないぞ。今日は、初日というのもあるから、
 中には入らず、ここ(外)で基本的な修行だ。」

ぴッ!

「キッド。お前はそこに書いてあるメニュー通りにこなせ。」

「うっわ。なんスかこれ・・・メチャクチャハード・・・」

というか、素振りだとか腕立て伏せとかそんなんばっかり。

「そして、リノンさんは僕に対して魔法攻撃をする。実戦だ。」

「え゛・・・そんな、魔法を人間相手に使うと大抵当たっちゃうと・・・」

「この4時間の修行・・・当たるのはせいぜい、5発程度だろうね・・・」

「・・・・・・キッド・・・ちょっと本気でやるわよ。」

「お、おい・・・相手は一応、先輩なんだから・・・」

「相手がソウジさんだろうと、高等部魔術科始まって以来の超優等生・・・
 いや、天才と言われたこの私、リノン・ミシュトが4時間で五撃なんて有り得ないのよ!
 私が本気でやるんだから、アンタもちゃんとこなしなさいよ!」

「ハ、ハイ。肝に銘じて頑張りマス。」

チャキッ・・・

「さ・・・僕らは2人でやり始めようか。」

「ソウジさんだからって緩い手はしませんから。」

プライドが高いリノンにはこれほどの屈辱もまた無い。
否応にやる気が出る。

(狙い通り。この修行・・・
 キッドよりもリノンさんがどれだけ本気になって取り組むかが、
 課題の1つだったからな・・・予想通り、突っ掛かって来てくれた。)


そうして、この戦いの日々の最初・・・1週間の修行の第1日目。
開始4時間後。


「ハァッ・・・ハァッ・・・・・・」

「・・・どうした。もう2人とも息が上がったのか?」

そう云うアンタは息が上がってません。

「うそぉ・・・ソウジさんってば・・・全然、堪えて無いし・・・
 魔法、ホントに5発以下だったし・・・おかしいわよ・・・!
 私の座標指定の精度は静止体は99%!動体に対しても92%!
 平均の65%よりはるかに上回っているのに!」

要するに残り1%もしくは8%のトコロで避けられたと言う訳だ。

「なんでこうなるのよぉ!」

「・・・・・・んー・・・じゃあ、2人とも自分の欠点とか何か分かった事がある?」

「「アンタが強すぎな事!」」

それは言えてる。

「はァ・・・僕は決して強い訳じゃないぞ。」

「「や、そんな謙遜する必要ないし。」」

尚更言えてる。

「・・・2人と僕に差があるとすれば、それは『実戦経験』の多さ・・・だ。
 2人とも実戦に近いものといえば、授業でしかやっていないだろう?」

「・・・そーいえば・・・魔物を相手にするのだって、そんなに無いよな・・・」

「うん。普通は駐在の騎兵隊が“掃除”してるから・・・」

滅多に遭遇する事も無い。大量発生などまれな事だ。

「・・・先日来たと言う、ロックハートと言う男。
 どの程度の実力なのかは皆目検討付かないが、キッドだってそれなりの腕はある。
 それでもほぼ歯が立たなかったのは、結局は実戦経験がないからだ。
 この1週間の行程・・・2人にはその経験を少しでも多く積んで貰う。
 勿論、そんなたった7日の修行でどうにか出来る訳では無いが、感覚ぐらいはな。」

「うッス。」「ハイ。」

「キッドは課題が多いぞ。その刻印の力も使える様になった上で、
 解放する道を開いていかなければならないんだから。」

「・・・何が起こるか分からなかったけれど、覚悟の上で声に答えた。
 絶対に諦めねぇ。絶対にこの龍を解放してみせる。」

グらっ・・・

「ぅぁ・・・っ。」

足の力が急に抜ける。

「あれ・・・?立てねぇ・・・」

「ぅ・・・私もちょっと立てないかも・・・」

「(さすがにガタが来るな。)ここではこれで終わりだ。道場に行くとしよう。」