ACT.153 信用と疑念


「実際の所、刻印となった精霊は自分の石の名は知るが、
 それを見つけることは非常に困難だ。」

「・・・その原因がオリハルコン・・・」


ダイヤモンドを越える硬度を持つ史上最高の鉱物。
魔力や魔法と密接な関係がありながら、
現存するそれはコンマ数ミリ程度の破片しかない。

それを使った封印術式―――。
精霊の力すら圧倒するその石の束縛によって、
本来の精霊の力は制限されている。


「制限は単に力を抑えるだけでなく、精霊自身の生命にも関わっている。
 鍵が失われると、抑えられていた力が暴発し死ぬとの事だ。」

鍵と呼ばれる存在に精霊の力を抑えるオリハルコンが埋まっているかは分からない。
その能力を有し、間接的に食い止めている事だけは確かだという。

「まぁ・・・シルフィード、グラソン、土を司る刻印に関しては
 例の2つの力の監視が終わった時にそれぞれ役目を終え、消えるとの事らしいが。
 とにかく、その制限下にある為に
 そして、宿主の身体を精霊の持つ莫大な力に慣れさせる為に、
 段階を踏んで適合させ、その中で能力を増やしていく。」

「よーするに、お前はクリスティーナ姫を守り抜かなけりゃ、
 風の力は暴走してお前も死ぬかも知れねぇって事だよな。」

そして、キッドとサラサの鍵も早く見つけなければならない。
ヒルダンテスが全ての刻印を掌握しようとしているのか、
敵対する全ての刻印を消滅しようとしているのかは分からないが、
守るべき鍵を見つける必要もある。

「そういうコトだ・・・とりあえず言っておく。
 ここに居る刻印使いは能力的に見て奴に確実に劣っている。」

それは、ロックハート自身も同じという事。戦闘技術は切迫している。
むしろ、上回っているかもしれないが、
魔法の能力と刻印の術式の慣れの差は埋めがたい。

「だが・・・
 奴の刻印さえ殺せば、奴は単なる魔人に成り下がる。殺すことは可能だ。」

「・・・・・・ねぇ、ロック・・・・・・」

「・・・何だ・・・」

「もし・・・・・・
 刻印の方が死んだら、鍵を持つ人はどうなるの・・・?」

「まさか・・・・・・」

「・・・・・・・・・シルフィード。」

手を握り締め、離す。

「・・・・・・答えてくれ・・・実際、どうなる・・・
 もしお前が役目を終えたとき、クリスはどうなる?!」

“・・・大丈夫・・・だと思う・・・”


チャッ!!!


「貴様―――――――――。」

「な・・・!」

精霊に刃を突きつける。

「だと思う・・・だと?!お前は分かっているだろう?
 俺がお前に対し疑念を抱いている事を。
 それを晴らしたかったら、確証付けて答えろ!」

“・・・だって・・・
 刻印が死ぬことは今まで無かったから、分からないに決まってる。
 けれど、鍵は中身を封じ守る為にあるだけで、
 その中身がなくなったからといって消えるとは考えにくい。
 家の鍵だって中に何も無くても、誰かに入られずにする為に使える。”

「アホが。
 人間の生活と刻印を同じにするな。」

“なら、どうすればいい?!疑われるのは仕方が無い、数千年も前のことだから!
 けれど・・・・・・私はお前を騙してなど居ないし、分からないことは沢山ある。
 私が刻印として現界した時間は100年にも満たないのだから・・・”

「・・・・・・・・・まぁ、いい。」

「じゃ、」


      ドゴォッ!!!


「ねぇだろ!このボケ!」

強烈な後頭部への飛び蹴り。
普段なら間違いなく避けられる一撃が見事に炸裂した。

「ちょっ・・・何してんの!?
 ご、ごめんね、クリス。このバカ」

「いいの、リノン。
 キッドさん、あなたは正しいです。」


ザ・・・ッ


「ロックハート・クラウン大尉、貴方は何を考えてあの様な真似をしたのです。」

「いや・・・だが・・・」

何気に焦っている。

(うわ・・・どうなるんだ、コレ・・・)

(アンタがやったんでしょうが。)

「本来は自分の力では無いモノを自分の力として振るい、
 自分の力となってくれる者に対するその様な無礼、恥と思いなさい!
 戦時ゆえに特例として赦しますが、降格処分は免れない愚かな行為です!」

白銀の姫の口撃は止まらない。

「そもそも貴方は、いつもいつもそういう過剰な行動が多すぎます。
 私の専任護衛だから良いものを、もし部下が大勢居る部隊長ならば、
 あなたのその醜態は更に大勢の人に晒されるのですよ?」

「い、いや、しかしだな、こういう事は」

というか、既に醜態晒しまくりだ。

(・・・・・・もしかして、コイツ・・・
 一生、尻に敷かれるんちゃうか・・・?)

(クリスは体重なさそうだから大丈夫だョ☆
 ホントにキツイのはリカだもんねー。)

(キ、キツくありません!むしろ、わ、わわ私は誠心誠意)

アンタらも何やってんだ。

「それでも、あなたは私の為にと言いながらもやりすぎな」

「姫・・・・・・その、そろそろ止めにしませんか・・・?
 皆さん、呆れ半分でグダグダになっているんですが・・・」

「あ゛・・・・・・」


gdgd   母音を入れるのすらめんどくさい、まさにそんな感じ。


「それから、侍女として申し上げますが、
 姫も姫で醜態を晒していると思いますよ。
 指導者のそれこそが最も恥ずべき、醜い姿であることを再考し、
 今後は熟慮した行動を心掛けてください。」

「ごっ・・・ごめんなさい・・・」

リサの一言で恥ずかしさ全開の真っ赤な顔になるクリスティーナ。

そんな姿をカワイイなー、とか思いつつ、
異世界だなーとか、一生縁が無いよなーとか思う幼馴染二人。


「と、ともかくだ。
 全員、今日は早くに休んで出来る限り万全な状態にするようにな。」


・・・反応無し。
興味があるのは今まで攻勢だったクリスが
一気にしぼんでしまってうろたえ続ける様子を見ることだけだ。


「・・・・・・・・・俺、隊長としての資質無いんだろうか・・・」