ACT.155 渡海/タイミング
8月3日<出発後3時間/リカード隊>
「意外と簡単に国境って越えられるモンなんだな。
まぁ、同盟国のユーリケイルみてーに“何もせずに”ってのは無理だったけど。」
現在、東大陸 トルレイト領。
東大陸はローテルダムとユーリケイルが80%もの国土を占めているが、
僅かながらに僻地としてトルレイトの領土も存在している。
現在、キッド達―――リカード・クィテッド隊が居るのは、
中央大陸と東大陸を挟む大海に臨む南部の町である。
一方のロックハートらは北部の町からトルレイトへ向かう手筈になっている。
そして、残りの本体は分散しながら、
ローテルダムの港から直接向かう。
「ま・・・この大陸に於けるトルレイトの領土なんざショボイし、
対ローテルダムの戦場として所有してるだけやから、
この大陸での警戒は然程無いやろ。問題は本国、中央大陸潜入の時や。」
「・・・いや、何かおかしくね?
何でローテルダムがそんな用途の領土許してんだよ。」
「そーだ、そーだー☆」
キッドはともかくコーデリアは知っておけよ。
「ホンマやで・・・」
「いや、何に同意してんのさ。」
「全く、特に姫は勉強不足ですよ。
このトルレイト僻地は137年前の大戦において、
ローテルダム領土であったこの地を占領された事が始まりなのです。」
リカードさんのお話が始まったのだが、
コーデリアはすげーウザそーにしている。
「ローテルダムは先制攻撃をしない事を憲法に定めています。
今回の我々の行動も、我が国への軍事行動とみなせた為に出来る事で、
この僻地への攻撃も130年余り、したくても出来なかったのです。」
と言った途端に、
意識的に張本人である国の兵士に目線が向く。
「そこでどうして私を見るのよ。
そんな大昔の責任まで取れないわよ、上級士族でも。」
取らないんじゃなくて、取る気なんて無いんじゃないの。
とかリノンが言いかけたが、言わない事で優越感に浸ることにした。
でも、むしろそっちの方が小さい。
「大体、今のここってトルレイトから独立してるようなものだからねェ。
だから、ローテルダムからの侵入にも気をつけないのよ。」
「え?そうなの?」
「ええ。
税金だけ上納、戦時に於ける協力、トルレイト領、
この3点だけを遵守させていて、後は放置してるわよん、小娘。」
最後にいらないのがついた。
「・・・知らなかった。でも・・・」
「戦争関係の歴史教育なんてそんなもんよ。
ここはトルレイトであってトルレイトでは無いところ。
ローテルダムへの敵視なんて全然無いわよ、ココの人達はね。
そもそも不法侵入されて、本国に向かわれたとしても、
本国の方じゃ“キッチリとした対応”を取ってくれるから大丈夫ってワケ。」
「・・・・・・・・・」
「あなたみたいに教科書=真実って考えちゃうタイプが一番、」
「悪い、サラサ。
俺もリノンもちょっとトルレイトにはいい気がしないんだ。
サラサの事は信じられる人間だと思ってるけど・・・
それでも、トルレイト自体には、な。
そこでストップにしてくんねーかな?」
「!――――――・・・・・・
分かったわ、ごめんねぇ、キッドたん。」
ザッ―――
ザッ――――――
「で、どういう事なの?忍者のボウヤ。」
キッドとリノンに聞こえないようにブラッドに話しかける。
「・・・なんで俺に聞くんや。
て言うても、リカは絶対に言わんやろうしなァ。」
教えるのも面倒だし、
サラサも分かっていそうだから尚更イヤなんだが、仕方がない。
「・・・3年前の魔族襲撃事件。
世界各国で起きたアレやけど、人為的なモンって話が通説やろ。」
「ええ―――。
ここの人間が魔道を無理矢理開いてしまったのが原因だったわね。」
「その事件の余波―――なんや。
魔道を無理矢理開いた事によって世界的に不安定となり、
ビサイドにも開きよってキッドは母親を、リノンは両親亡くしてんのや。」
「!――――――・・・・・・そう・・・」
少し、無責任だったと反省する。
本国の人間だからこそ、この魔道開門は恥ずべき、糾弾すべき行為だった。
例え、敵国に対してでも暗黙の了解というモノはあるのだ。
それを分かっていながら軽く吐いてしまった。
「まぁ、せやけど・・・アンタが謝る事は無いやろ。
タイミングが悪い発言やったっちゅうだけや。」
「・・・あら、優しいのね。」
「何を冗談言うてんねん。」
ザ・・・ッ
「メンバーの中で誰が一番アンタを警戒してんのか、
分かってて言うてるやろ。」
「えぇ、そんなの承知してるわよ。
ま・・・・・・貴方達も気をつけた方がいいわね。
私は裏切る気ないけれど、彼・・・・・・下手を打てばどうなるか。」
彼―――。
ブラッドも分かっている。
恐らくはサラサが言う人物と同じだ。
「・・・まぁ、せやろうな。あんたの監視は建前や。
向こうのチームに入っておきたかったけど、大丈夫やろ。
多分、・・・な。」