ACT.160 海渡/無理


1時間後<ソウジ隊>

「「「「・・・・・・・・・」」」」

『アラ、やぁだ、何すごいじゃないのぉ。』

なんともいえない声が船外の空に浮いている何かから響いている。

「・・・・・・・・・おい・・・・・・」

「・・・・・・何も言うな、ロックハート。
 ・・・気が滅入るじゃないか。」

『声もイイじゃなァ〜〜〜い。』

鳥肌総立ち。
これは相手の策略なんだと割り切ろうとがんばる剣士2人。
ムキムキのクセになんか、変な言葉遣いなのも全てギャップによる産物と
それによる効果を狙っての事なんだ。


『欲・し・い・か・も☆』


ブーッ!!


「だ、だだだだ、駄目だよぅ。
 ロ、ロックは私とふわわわわわわわ!!!!」

「落ち着け、クリス。
 問題ない。この程度、問題など何一つ無い。」

などといいつつ

「姫を連れてどこかへ脱出しようとしているのは気のせいか?」

「問題ないぞ。」

駄目だ。
流石のロックハートもこの手のインパクトには敵わないらしい。

「――――――ッ、クロード・・・君は・・・」

「アハハ・・・クロードさんでしたら、
 トレーニングの時間だから、ボートに乗って本国へとか言ってましたよ。」

リサはいたって平常心。メノウも見たところ似たようなもので、
どうやら女性陣には一部(クリス)を除き、余り効き目は無いらしい。

『あんまり乗り気じゃなかったんだけどねェ、仕方ないわよねェ。』

鋼鉄のナックルをはめている。
体格に見合った通りに格闘主体なのだろう。

『ヒルダンテス様の為に死んで頂戴よ?ウフフ・・・』

「それは出来ない相談ですわね。
 ・・・・・・殿方はどうやら、やり辛いようですし、
 私とリサさん・・・どちらが出ますか?」

メノウは殺気こそ出さないが、闘気は剥き出しになっている。
いつでも戦える、いつでも殺せる―――そう言っているのだ。
だが、

「魔術師でもない相手一人に魔術師が戦うのは
 あまり効率的ではありませんから・・・」


ザ・・・ッ


「私にお任せ下さい。」

リサが前に出て、ナイフを両手に握り締め構える。

「ここは90%以上が水で構成されたフィールド・・・私の本陣です。」

先手を切ることは無いが、後手に回ったところで負ける気はしない。
ローテルダム城下の戦闘で見せたアクアスティンガー・・・
あの時は効果を発揮できなかったが、この場でなら状況は一気に変わる。

あとは、味方同士での無意味な魔力干渉が及ばない援護がいれば、完璧だ。
ロックハートは風の魔力を使うために相性がいいとは言えず、
刻印の魔力にこちら側の魔力まで乱されかねない。
魔術師として優れるメノウも同じだ。

逆にソウジの扱う神刀流は要所で魔力を使うが、量が少ない。
というより、微量しか使えない為、リサの魔力で邪魔をしかねないのだ。
つまり、ここで後方支援として欲しいのは

「クロードさん。
 辛いかもしれませんが、援護をお願いします。」


完全な体術のみで戦える一級の格闘家なのである。


「フ・・・・・・・
 リサさんのお頼みとあらば、何が相手でも戦って見せますよ。ええ。」

その相手に即行で逃げたのはどこの誰だ、このボケが。
などと、未だにへっぴり腰のロックハートが言っても説得力はありません。

「貴方が死に向かう前に、名前だけ教えていただきましょうか。魔人さん。」

『いい度胸をしているのね・・・ソーライトの近衛兵。
 あたしはテリエート。闇葬組は第四の使い手。』

筋肉の軋む音。
メキメキと強調させ、力を誇示しようとしている。
無論、そんな事で怯むとは思っていない。

「――――――行きます。」


タンッ!


『――――――!』

リサが船外へ飛び出すが、落ちない。
足元には氷が生まれ、“脚”が細長く海面へと続いている。

『氷で足場を・・・・・・』

「さぁ、始めましょう。」

ナイフに魔力を一気に込める。
詠唱は必要ない。
フィールド自体がそれを補助してくれている。

魔法は“土地”の条件があえば、
詠唱を使わなくてもそれなりの威力を発揮する事が出来る。
大気魔力―――大気といえば、語弊が生まれるが、
自然界の全ての現象には魔力が少なからず含まれている。

すなわち、この海では水の魔力またはそれに変換しやすい状況下にあるのだ。

「アクアスティンガー。」


ずる・・・ッ!


「自然界からの魔力供給は膨大です。
 無論、私が込めた分の魔力が尽きれば、お仕舞いですけれど。
 カートリッジが多い分、私の魔力存続は非常に長い。」

『クフフフ・・・
 地の利を生かしてる、なんて言いたいのね。』

ニヤリと笑い、拳を天高く突き上げ、
雷の魔力を昂ぶらせる。

「・・・・・・」

『“巨人の左手光り輝き、魔を討たんと、轟き叫べ”!!』


バチ・・・ッ!!!


「リサさん、いけるのかい?」

「ええ。
 相手は雷属性―――水属性の最大の敵ですが・・・・・・」


ザ・・・ッ


「水にも色々ありますから。」

『さぁ・・・・・・いくわよぉ!!
 ラァアアアイトニングッ☆ナックル!!!』


ドゥッ!!!


「――――――アクアスフィア。」

水中から球体が4つ現れ、リサの眼前で円形をなす。

『!』


バシュゥウウウウ!!!


「どうですか。」

『・・・水の導電性を利用して、
 目の前で電撃を受け止め、自分には流さない。』

そして、電気分解が終了し、相殺―――
だが、これではどんなに雷を撃っても、
空高くへ水球を繋げ、誘導されれば意味は無くなる。

「次はこちらの番です・・・!」

氷で作り上げた足場を駆け、敵に水の刃を振りかざす。

『女は確実に殺す主義よ。ライトニング―――』

だが、一瞬早く雷が閃光する。
今度は貫通力を高める一撃か、突き出す手は手刀に変わっている。

これならば、水の導電性に多少奪われるが、
対象へ届く事も可能、加えて、刃との鍔迫り合いも出来る。

「――――――!!
 (水を消してナイフに戻せばいける―――けれど、)」



ガッ・・・!!!



『!!』

上空から蹴撃―――!!

「させはしないよ。」


ザザザ――――――ッ!!


『ッ、卑怯な・・・・・・!
 それでよく、正々堂々が主義という格闘技をやってられるわね・・・!』

「卑怯・・・・・・?
 襲ってきたのはそちらなんだ。
 それに僕は美しいものの味方でね、男であろうが女であろうが、
 逆のモノを手に入れようとするものであろうが、醜ければ容赦はしない。」


バキィインッ!!


『!―――篭手が・・・・・・』

「残念だけれど、美しいリサさんには傷は付けさせないよ。」