ACT.161 海渡/叫び
『――――――都合のいい美的センスねぇ・・・』
「都合がいい?何をバカなことを。
何を美と思うかは千差万別・・・・・・」
ザッ。
「僕は単に君が醜いと思っただけだ。」
「でしたら、すみません。
自分で言い出したことですが、ここは私一人に任せて下さい。」
「えぇっ!?」
やり口がマズかったのだろうか。
こんな風に拒否されるとは思ってもみなかった。
「すみません。
クロードさんにこんな汚い手口はさせたくないんです。」
「リサさん・・・・・・・・・
――――――そうだね。貴女の騎士道を怪我してしまう所だった。
でも、本当に危なくなったら、その時は。」
「はい、お願いします。」
チャキ・・・ッ
「テリエートさん、申し訳ありません。
仕切りなおしと行きましょう。」
『――――――気に入ったわ。
初めて、女で気に入れそう。でも、殺す。』
バチ・・・ッ
チッ! チ チチ! チ チ チ!チ チ!チ!
『一撃突貫――――――。』
「(凄い質量の雷・・・・・・)
受けてたちます。アクアスティンガー・ダブルス。」
ズッ!!!
「阻み、打ち壊します!」
『ハァ・・・・・・ぁぁアァア!!!』
筋肉が軋む。叫ぶ―――そして、
両手の前で組んだ手を突き出し、空中を疾走する―――!
『撃つのみよ!!
ボルト――――――スマッシャァアア!!!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「なんて雷だ・・・!」
「それにあの対空魔法の技術―――
体術のみならず、魔術師としても上級の使い手ですわ・・・!」
「リサさんっ!」
ド!!ォオオオッ!!!
「(姫・・・・・・私は貴女の為なら、何を犠牲にしてでも勝ちます!)
ハァァ―――――――――。」
『終わりよォオオッ!!』
ガガガガッ!!!
「ッ――――――ゥウウ・・・・・・!」
さっきの雷とは根本からして違う。
常に本体の近くで圧縮し、放出され続ける純度の高い雷。
鈍器のような両手の突撃力と相成って、
水の刃は分解どころか、それが始まる前に折れてしまいそうになる。
「・・・ッ!!!」
バチィいいイッ!!!
「あぐ・・・っ!!」
『このまま――――――突き抜けて!!!』
ド ゴォッ!!!
「―――――――――!!!」
腹部に強烈な一撃が叩き込まれ、
そのまま船に落とされる―――!
「ぁ・・・は――――――・・・っ!」
『は・・・っ、はぁ・・・』
手応えは抜群―――だが、油断は出来ない。
『――――――立ちなさいよ・・・まだ戦えるんでしょう?』
「―――――――――ぁ・・・」
『・・・・・・何だ、本当に終わりなのね。なら、止めを刺すわ。』
ザッ!!
「止めてください。」
『?』
「「「姫―――!」」」
倒れるリサの前にクリスが立っている。
「――――――私をヒルダンテスの元へ連れて行きなさい。」
『その命令は受けていないのよ、アタシは。
あなたの所在はロックハート・クラウンがいる限り明らか。
受けた指令は、戦力を削る事にある。』
取引には応じてくれない。
『立派なお姫様ね・・・
傷付く家臣を身を挺して守る・・・・・・
なるほど、だからあなたの父上は・・・
ヒルダンテス様の真意に気づく事が出来ずに、犬死したわけか。』
「!!!」
「貴様・・・!!」
チャキ・・・ッ!!
『己の責と言いつつ、
国を逃げ出し捨ててきた王子様が何か言えた義理?』
「ッ――――――。」
何も・・・――――――言える訳が無い。
言える訳が無い、だが――――――
「ですが、あなたも・・・・・・」
ザリ・・・ッ
「あなたとて、
人を捨てて魔人に成り下がっただけの存在じゃないですか・・・」
『・・・・・・起きた・・・』
ザ・・・ッ
「偽善者扱いされようが――――――
人の命を守るものと、人の命を奪ってまで何かを成そうとする者の・・・
どちらが崇高か・・・・・・あなたには分からないでしょう。」
ゴ・・・ッ!
『戦士がいう言葉じゃないわね。
人を殺してでも守るのでしょう?その偽善者のお姫様を。』
「はい。
あなたにとって偽善者でも私にとっては、
ただ一人・・・唯一お仕えしたいと思えるお人ですから。」
にこりと微笑って、再び構える。
「リサさん・・・・・・」
「自信を持ってください。
あなたも亡くなられた国王も、何一つ間違っていません。」
ザ―――ッ!!!
「前へ進みましょう。
でなければ、今の道が正しかったかどうかさえ分からないのですから。」
水属性の魔力が昂ぶる。
今度はアクアスティンガーを使わない。
『そう。
どうやら、ソーライトの偽善者っぷりは全てに浸透しているみたいね!』
「何とでも言って下さい。
そんな言葉では――――――折れません。」
更に魔力を高めて行く。
「“深き底の蛇追いて、貫きしは三つの牙。”」
『ッ!?』
たった一小節の詠唱で爆風が吹き荒れる。
「“王は取りて、掲げ叫ばん”!!!」
リサの両手に槍のような魔力の塊が出来上がっていく。
狂気に近い圧縮率―――、何が出る・・・
『さ・・・させない!!豪腕爆砕!!!』
ラ イ ト ニ ン グ ク ラ ッ シ ャ ー ! ! !
「水の具現魔法、槍の兵装――――――トライデント!!」
ズガッ!!!!!
『く・・・・・・!?』
ギギ!! ギ ギギギギ!!!
「この兵装魔法は水の属性を持っていますが・・・
構成魔力として土も含んでいます・・・!」
『弱点の補完・・・!
さすがは、兵装魔法<アームズ>を出せるだけの事は・・・』
だが、土を含んでいるとは言え、大多数が水魔力。
更に力を込めさえすれば、破壊されてしまう。
『でも――――――これで!!』
「終わりです。アイスドライバー。」
ズ・・・ガガガガガッ!!!!
『か・・・・・・っ・・・!?』
トライデントが氷に変わって弾け飛び、八つ裂きにする。
腕は吹き飛び、体中が穴だらけ―――もう、魔人といえど復活する事は出来ない。
『バカ・・・な・・・』
「――――――私の魔力は氷も使えることを最初にお見せしたはずです。
何も予想外の事はありません。このまま静かに眠って下さい。」
ド・・・ボンッ!!!
「・・・お怪我はありませんか?姫。」
「・・・・・・うん・・・ありがとう。リサさん。」
同刻<リカード隊>
「アレがトルレイト領海を守る海上基地よん。
規模はあんまり大した事無いんだけどねぇ・・・」
「出来れば、戦闘せずに行きたいぜ。
こっちには姫がいるし、海じゃ逃げ場が少ない。」
無用な争いには関わりたくない。
倒すべき敵はあくまでヒルダンテスだ。
「コーディもトルレイト帝国兵に対しての攻撃行為は避けたいョ。
だから、ここは透過機能を使って」
「で・も、駄目よ、お姫様。」
ガチャンッ!!!!
「お、おい!待てよ、サラサ!」
サラサの構える銃器の口に手を当てて、砲撃を阻止する。
「姫はそんな事する必要ないって言ってるんだ。
それに、あの基地にいる連中は、曲がりなりにもお前の仲間だろ!?」
「――――――何を甘い事言ってるの、キッド。」
「・・・っ!」
氷のように冷たい眼―――。
だというのに、殺意は燃え上がるように湧き出ている。
そう、サラサ・ハルダイトは国を裏切っている。
今更、仲間だという概念など存在しないし、命も狙われている。
「あの連中を殺しておかなければ、私たちの後続が苦労するのよ。
ステルスを使うのには同意してあげるけれど、通過中は攻撃し続ける。」
「で、でも!」
リノンも反対するが、ブラッドとリカードは何も言わない。
サラサの判断の方が正しいというのだろうか。
ただ、リカードの場合はコーデリアの決定に従うのみだから、
あくまで意思表示をしない、ということだろう。
「コーデリア姫、あなたの今の立場がどういうものか、分かっている?」
「え・・・?」
「――――――あなた、王位は継承していなくとも、
ローテルダムの国家元首―――国王と同じなのよ?
国王は全ての人民の命を預かるという責任がある。
それをどう使うかは、国によって様々だけれどね・・・」
S.T.A.R.のシステムプログラムが起動する。
発射準備完了まで30秒もない。
「1つだけいえるのは、あなたの判断1つで国民全員が死ぬ事もあるって言う事よ。」
「っ・・・・・・
だ、だからコーディはみんなと一緒に来ることで」
「なら、現実を見なさい。
ここでこの連中を殺さなければ、
いずれ大きな刃になってあなたの大切な部下も国民も、
あなたの父上たちが守ってきた国すらも消えてしまいかねないのよ?」
キィイイイイイ―――――――――!!
「俺もサラサに賛成や。
ここは潰しておかんとあとで面倒な事になる。
既に後続部隊も間近に迫ってるんや・・・やらな、殺られるんやで。」
「・・・・・・そんな・・・
ひどいよ・・・そんなの・・・」
12歳や13歳の少女には苦しすぎる、厳しすぎる現実―――。
だが、王族であると言う事は常にそれに立ち向かわなければならない。
「・・・リカ・・・どうすれば・・・・・・」
「――――――軍人としての判断なら、潰すのが定石です。
ですが・・・私は姫の刃。――――――何も、言えません・・・」
つまり、サラサの考えに近いのか。
「待ってくれよ・・・」
「――――――ごめん、キッドたん。
これは―――私のけじめなの。あなた達への償い・・・
だから・・・・・・私は討つ!!トルレイトの悪意を全て!」
コォオオオ―――――――――ッ!!!
「や・・・・・・」
「S.T.A.R.システムロック解除―――!
システムオールグリーン、エクステンションシュート!!!」
ドッ―――!!
「止めろォオオオオオッ!!!」