ACT.162 海渡/龍火





ザアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!



「「―――――――――!!!」」

数百もの水色の閃光が空に放たれ、大気に一度霧散する。

『?!』

『な・・・何だァ・・・!!?』

そして、その強烈な閃光に気づいた者達は、
天を仰ぎ何が飛び立ったのかと畏れるだろう。

だが、天空で再び凝結した魔力の氷は、
数百もの刃となって――――――光を伴いながら

『え・・・』

『うあ・・・・・・うわああああああああ!!!』

『に、逃げ』


一瞬にして降り注ぐ。


『がば・・・っ!!』

胸部―――

『ぐああっ!!』

 右足―――
手首―――

『ァ――――――』

   脳天――――――
 心臓―――肺、骨までもが、際限なく降り注ぐ狂気に蝕まれて行く。


「ッ―――――――――止めろ・・・・・・っ」


それでもかすかに聞こえる叫び、喘ぎ、呻き。

砂浜が赤く染まり、やがて、
コバルトブルーの海までもが紫色に―――いや、真紅に移り変わる。


「止めろ、サラサァアアア!!!」


ドッ!!!!


「!?」

「な・・・っ!!」

キッドが叫ぶや否や、紅い閃光が迸る。
刻印の力が、溢れている。

「キ、キッド・・・?」

右手が空高くに掲げられている。

己の意思では無い――――――。
左手で必死に押さえ込もうとしているが、魔力放出は止まらない。

「や、めろ・・・サラサ・・・・・・!」

「何を――――――!?」

「コイツに、殺される・・・ッ!!!」



カッ!!!!



「キッド!!」

爆炎が舞い上がり、キッドの身体を包む。
更に発光――――――

「何が・・・どうなってるんや・・・・・・」

「姫、私の後ろに・・・・・・
 それから、機関停止!ステルスのみ稼動しろ!」

基地からの攻撃は恐らく無いだろうが、
見つかる事だけは避けなければならない。



それより、この悪寒―――。



“愚かなる女よ・・・・・・愚かなる氷の使徒よ・・・・・・”

「!!
 この声・・・・・・もしかして・・・・・・」


ザァアアア――――――・・・


「フレイムドラゴン・・・!」

キッドの周囲に焔の龍が渦巻いている。
彼の意識は・・・無い―――
身体を拠り所として、具現化しているのか・・・

“それほどまでに血を欲するか・・・?
 氷の精霊、グラソンよ・・・・・・貴様、堕ちる所まで堕ちたのだな。”

「ッ・・・・・・」

サラサの右手が光り、氷の精霊が現れる。
グラソン―――碑雹(ヒヒョウ)の刻印に棲む小人タイプの精霊だ。

“ま、待ってくだ・・・ください!”

“・・・・・・力なき者を葬って何故に悦に浸ろうとする・・・・・・?
 貴様の勇気とは・・・そんなものの為にあるのか。”

言葉一つだけで、周囲の空気が固まる。
息が―――苦しくなってくる。

何より、氷の精霊は相性として火には圧倒的に弱い。
居るだけで―――死に近いのだ。

「フン、勘違いしているようだけど、
 弱い者イジメして喜ぶほど私は堕ちてなくってよ。」

「バカ!ケンカ売ってどうするのよ!」

“中々肝が据わった女子よ・・・だが・・・・・・” 

口腔に業火の焔が溜め込まれる。


殺る気なのだ。
間違いなく。威嚇なんかじゃない。


「や・・・めろ、ボケドラゴン・・・ッ!!」


 “―――眼を覚ましたか、だが、黙れ小僧!!!”


ブシュッ!!


「く・・・っ」

高温高熱の焔で身体が耐え切れていない。
放出のレベルが違いすぎるのだ・・・

“貴様にも・・・意味を教えなければならないようだな。”