ACT.163 海渡/最終的否定
「やってみる?
属性の上ではこっちが不利だけど、
精霊の力ともなれば拮抗していなければ道理はないわよねぇ。」
ザ・・・ッ
「ちょっ、待てって姐さん。
こんなトコで刻印同士の撃ちあいしてもーたらどんな事になるか・・・!」
恐らくは、この海域一帯が消滅してしまうほどのエネルギーが発生する。
そんな物に耐えられる訳が無い。
それに、コーデリアが本当に鍵を持っていて、
キッドとサラサのどちらかの刻印に対応している場合、
クリスティーナと同じくワープしてしまう可能性だってある。
「ッ・・・頼む、サラサの事は俺が止めるから・・・・・・
お前は、俺の中に入ってやがれ・・・ッ!」
「キッド・・・!」
左手で右手を掴み、思い切り握り締めている。
力ずくで押さえ込もうとしているのだ。
“小僧・・・!
これを許す―――それが貴様の正義か!”
「違う!
俺だってこんなやり方は絶対に嫌だ!
でも・・・、でも仲間同士で戦うなんてのはもっと嫌だ!」
ブシュッ!!
「ッ・・・・・・」
火炎に右腕が耐え切れて居ない。
砕けるか、焼ききれるか―――。
「テメェは大人しく・・・
成仏してもらうのを待ってりゃいいんだよ・・・!」
“小僧・・・!”
それとも、精神で全てを凌駕するか。
「俺はテメェの為になんか戦ってない!
俺の戦いが結果としてテメェの為になってりゃそれでいいだろ!!
この事は俺がケリをつける!テメェは黙ってろ!」
“・・・・・・言うたな・・・・・・?”
「・・・うるせーよ、さっさと中に入れ!」
“―――――――――。”
殺意が消えて行く。
焔の熱も霧散する・・・
“今日は貴様に免じて見逃そう。
だがしかし、この先卑小な振る舞いをすれば・・・”
「「「・・・・・・・・・」」」
“分かっているな・・・・・・?
そしてグラソン・・・・・・
我々が存在している時点でこの世界に危害を加えていると言う事を・・・
よく思い返しておくのだ・・・・・・”
炎が舞い上がり、再びキッドの中に入る。
「・・・・・・・・・」
「・・・どーいうこっちゃ・・・・・・
(存在している時点でこの世界に危害・・・・・・
そらそうかもしれんが、何でわざわざそんな事を・・・・・・)」
ザリ・・・ッ
「悪かったわね・・・
まさか、紅の刻印が起きるとは思わなかったのよ・・・」
「・・・俺だって・・・
さっきので2度目だから、驚いてる。」
あの怒りは何だったのだろう。
恐らくは、圧倒的な力を振るう必要の無い者に振るったからだろう。
だが・・・・・・それだけとは思えない何かがあった。
「・・・・・・1ついいか。サラサ・ハルダイト。」
と、リカードが発言する。
怒っているように見えるが、あくまでポーカーフェイスだ。
「あら、何よ。
弁解しようにも、これ以上は無理よ。」
「刻印の事ではない。
少なくとも私と姫は、この海上基地の存在を知らされていない。
恐らくはこの2人もそうだろう・・・・・・
サラサ・ハルダイト、それにブラッド・・・・・・どうして黙っていた。」
信用の話ではない。
この部隊の最終的な責任者はコーデリアなのだ。
それすら知らない場所を通過し、
更に攻撃を加えるのはいささか問題がある。
無論、軍事行動としては適切かもしれない。
「リカが怒るんはもっともや。
サラサ姐さんかてやり方はあんまり良いとは言えん、けども・・・」
「おい・・・
戦争だから殺さなきゃならないのかよ!」
キッドの言う事はもっともだ。
だが、ここで潰さねば誰かが傷を負う事になる。
分からない訳ではない・・・けれど―――
「そうよ、戦争だから殺さなければならないの。
逆に言えば、“戦 争 で な け れ ば 敵 は 殺 せ な い”のよ。この意味が、分かる?
貴女(リカード)はそれは承知した上で聞いているし、論点は違うだろうけどね。」
「―――――――――分かりたくねェよ。そんなの・・・」
分かってたまるか。
そんな事、理解しちゃ駄目だ。
そんな解決法だけだ、なんていう諦めでしかない。
「私たちは・・・ただの学生だから、
軍人のサラサの考えを理解出来ないのだと思う。」
「そうね、普通はそれで良いわ。リノン。」
「でも、その軍人の考えを私たちや、
理想を掲げているコーデリアに強制するのはおかしいんじゃないの?」
確かに、主義主張の問題なのだ。
現実が眼の前にあったとしても、強制するのは話が違う。
リノンの考えはもっともだ、とサラサは同意する。
「それもその通りかもね。」
だが、最終的には否定する。
「でも、あなた達の今の立場・・・分かっているの?」
今まで、人相手に不殺であっても戦ってきた事の意味、
戦えて来た事の意味を――――――分かっているのだろうか。と。