ACT.168 海渡/六大執行者


「魔術士対決・・・・・・
 リノン・・・大丈夫かな・・・・・・」

「危なくなれば、私が一気に飛び込んで助けます。
 ですが・・・・・・その必要は無いかもしれません。」


彼女にある肩書きは伊達ではない。
魔法合戦と言う土俵ならば、彼女の敗北はまず有り得ない。

リノン・ミシュトが苦戦する相手がいるとすれば、
魔法でも近接戦闘を可能にする兵装魔法の類だろう。


「サンダァアア!!スラッシュ!!!」


右腕に蓄えた魔力を振りぬく事で始めて発動する雷の斬撃!
中距離程度までなら到達する“飛び魔法”だ。

が、
距離が離れている=到達までに時間がある
という事になる。
多少、反応が遅れたとしても属性さえ分かってしまえば、
対抗措置はいくらでも取れる。


『土属性魔法・・・ギガントウォール。』


雷には土が強い。
その上、このフィールドは整理された地面だ。
強度・硬度ともに良質―――並の雷では歯が立たない。


「・・・・・・・・・。」

『・・・どうしましたか。
 あなたの場合、属性に悩む必要は無いはずです。』

「なんだ・・・そこまで知ってるんだ。」

みんなにもちゃんと言ってないのに・・・と悪態をついてみせる。

『その方があなたの為です。
 あなたの持つ力は100年に7人・・・・・・
 コンマ以下の確率・・・それ故に、よく思わない人も大勢いるでしょう。
 口外しない方がいい事もあります。』



カツッ



『・・・ですが、私はあなたのその力を知っている。
 あなたが私の扱える属性を知らない・・・というのはフェアでは無いですね。』

「・・・そんな事ないと思うけど・・・」

なんか律儀だな・・・とか思う。
アルベルトの丁寧さはイラッとくるが、こっちは違う。

本当に丁寧なのだ。

『私の魔力は、五属性・・・つまり、五柱。
 使用可能属性は“火氷風土雷”です。』

「・・・五柱なら私と大して変わらないわね。」

『しかし、五柱は全世界で24%を占めています。至って、平凡な能力。』


だが、リノン・ミシュトの扱える属性はもう1つ、多い。
六大属性―――火・水・氷・風・雷・土。


『かつて、魔術師で六大属性全てを扱える者は“六大執行者”と呼ばれていました。
 そうですよね・・・・・・リノン・ミシュトさん。』

「ええ。」

『その真の凄さは魔術士にしか分かりませんが・・・・・・・・・
 あなたはそれだけに留まらないはず。
 どうして6年間も最優秀生徒でいられるのか・・・・・・
 ただ、勉学に励めばなれるものではありませんから、
 答えは簡単に分かりました。』



ザ・・・ッ



『あなたは六大を使える上に、3つの魔法種を扱える。』

ゼロ以外の魔力を持つものは皆、
扱える魔法の種類と属性の組み合わせが異なる。
種類が同じでも、更に細分化されていく。

「そうよ、私は“通常攻勢”“精神”“具現”のトリプルを使う。
 まさか、そんな所まで調べられていたなんて驚いたわ。」

「コーディの方が驚いてるョ!
 ただの田舎娘だと思ってたのに何だよゥ!
 ステータス増やしちゃってサ!」

「何でそこでツッコミ入るの?!
 っていうか、田舎娘って何よ!ちっこいの!」

『あの・・・』

「うわわあああんっ!!!
 お姫様に向かってその言い方はあんまりだョ!」

『・・・あの・・・』

「六大でトリプルなんて過去300年でも居たかどうか分からない逸材と
 ちっちゃいお姫様のどっちが凄いかなんて自明の理でしょ?」

「リノンさん・・・それはちょっと言いすぎ・・・」 

『あの・・・』

「ペーッだ!平民がーッ!」

「うわっ、言ったわね!?
 超問題発言として帰ったらどうしてやろうかな!?」

『あの・・・・・・戦いは・・・・・・』

「「「あ・・・・・・・・・」」」


とても丁寧な女性―――サク。
刀鍛冶であり、魔術師としても優れている。だが、

微妙に影が薄い。