ACT.173 不始末
「・・・ッド・・・」
「――――――ぅ・・・・・・」
声・・・?
誰かが、傍で呼んでいる・・・
「―――キッド殿・・・・・・」
「ん・・・・・・リノ・・・ンな・・・?」
眼の前にはイカつい男。
「ウアアアアアッ?!」
がバアッ!!
「な、何だテメぇえええ!!!
あうああああああああ!!!!」
何とベタな・・・
「・・・って・・・
・・・アンタ・・・シンのトコの。」
「カイと申す。
それだけ声が出れば大丈夫そうですな。
他の皆様方も既に傷は応急処置ながら、手当てしましたぞ。」
湿布やら絆創膏やらが貼られている。
動かすと少し痛い・・・
「っ・・・・・・・・・」
だが、思ったよりは軽症だ・・・
打ち所が良かったのか、受身を何とか取れたからなのか・・・
「キッド殿。
コーデリア姫とリノン殿は何処に?」
「―――――――――ァ・・・・・・」
ドクン・・・ッ!!!
「リノン・・・ッ!!!!」
「ちょっ・・・立ち上がっては・・・!」
「リノン!!!どこに」
ビキ―――ィッ!!
「うぐ・・・」
たまたま・・・動かせる部分が痛くなかっただけ。
やっぱりメチャクチャ痛い。
「くそ・・・・・・っ!
くそ、くそ、くそっ!!!」
「・・・何1人で熱血主人公やっとんねん。うっさいわ、アホ。」
「!」
ブラッドの言葉にカチンと来る。
「悔しいのはお前だけやないんや。
アホみたいに騒ぐな、ボケ。」
「ッ、てめぇっ!!!」
ガシッ
「――――――何や、これで人を掴んで投げ飛ばすんかい。」
「っ・・・?!?」
力が入らない。
投げるなり、突き飛ばすなり出来るはずなのに、
ブラッドはビクともしない。
「ゴチャゴチャとこれ見よがしに悔しがって何になるんや。」
「!!」
「俺らは一刻も早く、二人を救出し、ヒルダンテスを叩く。
そんで、お前は何をするべきか分かってへんのか。」
アルベルト・ラライを倒す!
「今、お前が考えなアカン事は悔やむ事やないわ、ボケ!
あの黒メガネを完膚なきまでに叩きのめして、
リノンをさらった事を思いっきり後悔させる事やろうが!」
「―――――――――!」
「他の連中はとっくに次に眼ェ向けてる・・・
お前は・・・・・・どうすんねん。」
目的が増えたのか、1つに絞られただけなのか・・・
もともと、これのために戦うのかもしれない。
ヒルダンテスは止めなければならない。
でも、それはきっとロックハートがやることなんだろうと思う。
じゃあ――――――キッド・ベルビオスにとって倒さなければならない敵は?
「――――――俺は・・・戦う。」
父も母もあっという間に失って1人きりになって、
あの襲撃で友達も大勢失って傷付き続ける彼女を、また、
また、傷付けるあの男を倒さなければならない。
「戦う。倒す――――――俺は、アルベルトを倒す・・・!
世界とか、刻印とかそんなの・・・今の俺にはどーだっていい!」
「・・・そうや。お前はただの学生や。
その程度の広さを守る覚悟だけで十分、戦える。
その外側は俺らみたいな人間がカバーしたる。
せやから、思う存分、奴を前にしたら叩き潰せ。他の事は気にすんな。」
「ああ。」
ぐっと拳に力を入れる。
そうだ、ここで止まったり、下らない後悔なんて必要ない。
前に進んで取り返す、悪意は吹き飛ばす。
「ありがとう、ブラッド。」
「・・・やめぇ、男に感謝されても嬉しないわ。
(・・・別に友人としての助言やない。
お前とリノンの事をある人に頼まれてるから、節介しただけ・・・
・・・・・・それをあの男は知ってた・・・)」
同刻 東大陸及び南方諸島連合軍 本部
「よくぞ、戻られました。総司令。」
「しばらくの不在、悪かったな。
ま、俺様が居なくても大抵はなんとかなっただろ。
優秀な一番弟子もいた事だしな。」
ニヤリと不敵に笑う。
「お陰で各国の王族・皇族・貴族の令嬢の行方不明・・・
その居場所の捜索に専念できた事だし、目的も大体はつかめた。」
「ええ、連合軍の総力を結集し、現在侵攻中です。
我々としても、このような軍事行動は避けるべきだと考えていましたが、
20年前を繰り返す訳にも行きませんしな・・・」
「今回のは、国家間の問題じゃねェよ。
ごくごく一部の人間の悪さの結果だ。つーか・・・」
ザリ・・・ッ
「――――――女1人守ってやれなかった俺様の不始末だな。」
「?」
「まぁいいか。俺様もこれからトルレイトへ向かう。
ヒルダンテスの小僧を潰さねぇとな。」
「送らせましょうか。」
最後方支援部隊の1つぐらいならば、自由に動かせる。
が、必要ないと男は言う。
「な、シン。」
「ええ。これで閃迅組が揃いました。
カイは先行させてます。」
「よっしゃ、んじゃぁ・・・・・・行くとするか。」
ザッ―――!
「どーやら、あのバカも噛んでるみてーだしな。」