ACT.174 トルレイト/本土上陸


翌朝
中央大陸トルレイト本土 北東部<ソウジ隊>


「・・・上手く着いたが・・・周りに敵は居なさそうだね。
 もう、抵抗は諦めて城での決戦を向こうも望んでいるのか・・・」

気配を探ってみるが、全く人気がない。
平原だが、荒地となっていて隠れる場所も存在しないのだが、
それにしたって、警戒の意図が全く見られない。

「ま、ボクはどうでもいいけどねー。
 それよりも・・・この酷い荒れ方が気に食わないねぇ・・・美しくない。」

いや、むしろこのボロボロ加減が逆に美的かもしれないな・・・
などと訳の分からんことをのたまい続ける、ナルシスト。

「ここはさっきの島や東大陸方面への戦力を送る為に
 いつも使われるルートの様ですから、
 人に踏み荒らされてこうなったのだと思います。」

と、御丁寧に解説してくれるリサさん。

「おお、流石はリサさん。博識だ。
 やはりこれからの近衛兵というのは、知識を持っていなくては勤まりませんね。
 どこぞの目付きの悪い緑色の髪の男とは大違いだ。」

「い、いえ・・・そんな・・・」

(・・・ヒいてますわね。)

(・・・ヒいてるね。)

(・・・ヒいて・・・・・・・
 というか、ロック、ちょっとなんで抜刀してるの!?)

(・・・・・・・・・殺していいか。)






同刻
「ん・・・・・・」

眼が覚める・・・・・・
微妙に鈍痛があるが、動かせない事もない。

「大丈夫・・・?リノン・・・」

隣にはコーデリアが座っていた。

「・・・・・・うん、一応ね・・・」

部屋を見渡してみる。
かなり豪華な装飾品で囲まれいるのを見て、
どこかの屋敷か、トルレイト城のどちらかという推測が成り立つ。

「・・・私たち2人はさらわれたってトコね。」

冷静に、冷静に判断しようと試みる。
だが――――――徐々に焦りは広がってくる。



『お目覚めになられましたか・・・御二方。』



が、その焦りはこの一言で急速に萎み、
新たに緊張感が張り巡らされる――――――。


「アルベルト・ラライ―――っ!」

「一国のお姫様をさらうなんて、
 大それた事をよくもやったな!このやろー!」

リノンとコーデリア、2人揃って立ち上がり、
勝てるわけもないのにいつでも戦ってやるんだと意気込む。

『ガイア最大の国の姫君とあろうお方が、
 戦場に出て来るという判断をされる時点で大間違いなのですがね。』

「う・・・・・・」

『千年国家も堕ちたものですね。』

それはもう、嫌味に嫌味を塗り重ねて、
ギトギトになるぐらいに腹立たしい言い方をしてくれる。

「12歳やそこらの女の子にいい年した大人が、
 そんな嫌味言って面白いの?」

『おや・・・リノン・ミシュトさんは中々、冷静だ。
 さすがは魔術師ハーウェン・ミシュトのご息女ですねぇ。』

「!」

ハーウェンは父の名だ。
ローテルダム魔術士団の師団長も勤めた事のある腕利きの魔術師だったが、
10年ほど前に亡くなっている。
だが――――――そう知られるほどの人物でもないはず・・・

「・・・・・・・・・」

『自分の方が魔法を上手く使えると思っておられるようですね。』

「・・・そうね。お父さんには悪いけど、
 具現魔法を使える時点で私の方が確実に上だもの。」

具現と通常魔法では、硬さからいって格段に違う。
その上、リノンは精神魔法まで扱える魔力性質を持つのだから、鬼に金棒だ。

『その自信を粉砕してみるのも面白いと思いまして、
 この部屋にお連れしたのですが・・・』

「そんなそっちの都合なんて知らないわよ!」




ザッ!




「答えなさい――――――!
 コーディが鍵を持つ者の候補だからさらったという理由は納得出来る!
 でも、私をさらった理由は何・・・?」

『おや・・・
 どうやら、かなり自惚れた理由を想像されていますか?』

「うぬ・・・?!」

一体何を言い出すんだ、この男は・・・

『あなたが、キッド・ベルビオスにとってかけがえのない・・・
 それこそ命を賭けて守るに相応しい存在で、
 私はそれを利用し、彼を激昂させ戦おうとしている・・・というのはどうですか?』

「ッ――――――」

顔がボッと、真っ赤になる。

「そんな事言うなんてひどいよ!」

『おや、彼女にとっての真実を言ったまでなのですから、
 別に私は悪くないでしょう?
 責めるなら、さらった事に対してだけにして頂きたいですね。』

「な・・・・・・・・・」

なんでこうも悪びれる風も無く、
女の子を傷つけるような事を言えるんだろう―――

ソウジやクライセントは、
とても優しい人なのにこの男は全然違う。
直接傷付けるのは嫌だとか言っているのを聞いたが、そんな事ない。

『私の事をどう思って下さっても構いません。』

「そうね――――――あなたは敵なんだから。」





ゴッ―――――――――!!





『――――――!』

魔力の暴風―――!
リノンを中心に渦巻き、部屋の様子を一変させる。

「確かにそういうヒロイン的な事は考えたけどね・・・
 むしろ、あなたを倒して、でかい顔した方がいいみたい。
 あなたを倒すわ、私の全力で。」

眠らされたのが功を奏したのか、
魔力は一気に回復している。何かをされた様子もないし、いける。

「後悔させてあげるわ、私までさらった事を・・・・・・」

後ろは大きな窓―――
一撃を放って、コーデリアを抱えて飛び出せば、
後はなるようになれ、だ。


『――――――驚きましたね。
 この段階で白の影と同じレベルか・・・・・・・・・』

「何を訳のわかんない事を!」


コーデリアはリノンがどうするのかを察して、彼女の背後に回っている。
隙を埋めるように魔法を撃つ準備もしてくれた。

これなら、万全―――!


「一撃で仕留める!!!」





大 嵐   フ ル ガ ン ス ト ス ピ レ イ ト ! !





『――――――この歳で元は魔界魔法、S級を扱いますか。
 ですが、――――――申し上げたとおり、その自信を粉砕しましょうか。
 まぁ・・・私の実力では無いですけどね。』


迫り来る嵐の刃を目の前にしながらも、
アルベルトは癇に障る笑みを失っていない。


『――――――魔力減衰機構発動。』

「!?」

魔力がスルスルと解け、
アルベルトに達する前に崩壊してしまった。

『よくあるトラップ系の魔法です。
 半永久持続しますので、ご注意下さいね・・・』

「―――――――――。」

「今度はコーディが!」

具現魔法ならばと、意気込んで見せるがリノンは制止する。

「無理よ・・・トラップの魔法だけならいざ知らず、
 どうもこの部屋・・・魔力自体を拡散する鉱石か何かで作られてるみたい。
 二重構造でもなければ、私の魔法を止められるわけ無いもの。」

『おや・・・さすがは才女ですね。
 その自信も当らずとも遠からずですが・・・』


ザ・・・ッ


『上には上が居るのですから、あまり無意味に暴れないで下さいね。』

「―――――――――・・・。」

『それから、先ほどの暴言は失礼しました。』

「?」

さっきの・・・というのは、
キッドが助けに来てくれるというくだりの事か・・・

『申し訳ないです。
 あなたを見て、少しばかり虐めたくなってしまったのですよ。
 余りに懐かしい気分になったものでね・・・』



そう、言うだけ言って、去ってしまった。



(・・・・・・懐かしい・・・?)