ACT.175 トルレイト/石


「あれがトルレイト城ですわね。」

遠くにそびえる巨大な城―――

まだ、5kmは離れているというのに、
その存在感は圧倒的だ。

「この森を抜けたら、もう直ぐですね・・・・・・」



ザッ・・・



「これは・・・・・・・・・」

小高い丘・・・というよりは、崖に近いところに出た。
眼下に小さな村がある・・・

しかし、生気を感じられない。
作物だけがその鮮やかな色を示し、どうにか虚無感を埋めてくれている。

「・・・・・・。
 ・・・あの子達・・・・・・」

クリスティーナが見つけた4人の子供・・・
服こそ整っているが、異様に痩せ細っているように見える。

「―――――――――これが、この国の真実・・・か。
 度の過ぎた搾取が成されているのか・・・・・・」

恐らくはそうなのだろう。
作物は十分なほどに実っている。
だというのに、一歩間違えれば栄養失調になりかねない容姿の子供達。
時々見える大人もまた、似たような風貌だ。

「・・・・・・こんなの、国じゃない・・・」

「――――――姫・・・」

たまらず駆け出しそうになる。
だが、ロックハートがそれを止める。

「!」

「・・・なぜ驚く。」

「でも・・・」

何かしないと落ち着かない。

「・・・・・・ここに構っている暇は無い。
 災害が発生しているのならまだしも、この状態ならばまだ時間はある。」

「・・・・・・・・・それは・・・」

「姫、今私たちが成すべき事は圧政からの解放ではなく、
 ヒルダンテスらの討伐です。」

リサも同意見だ。
なにより、ただでさえこんな所まで来てしまったクリスを、
必要以上に身の危険に晒す事は出来ない。

「・・・・・・・・・」

「分かってください、姫。僕たちの目的とは異なる事です。
 が・・・全てが終わった後、この事を糾弾する事で彼らを救う事ができます。
 後回しになるのは苦しいですが、この場は・・・」

「・・・・・・そうですね・・・」




ド・・・ンッ!!!




「!!?」

強烈な地響き―――と共に、足元が崩れて行く・・・!
ちょっとした高台から、風景を見下ろしていたが、
視界が一気に下がっていく―――!

「ッ・・・!」

クリスを抱えようとするが、殺気がそれを阻む―――

「な・・・」

「下から何か来るぞ・・・!」


ダン!ダン!ダンダンダン!!と爆音を上げながら、
巨大な斧を持った男が突進してくる。
崩れ落ちて行く岩などお構い無しに、ただ一点―――

ロックハートを狙って走ってくるのだ。


『サイ・・・サァアアイ!!!
 リゲルゥウウウオオアッ!!!!』

「あの男は・・・!」

ロックハートをサイと呼んだ、あの奇怪な大男だ。
それが、鬼のような形相で迫り来る。

「奴は俺が食い止める。皆は先に下れ!」

「姫は私が!」


どこにそんな力があるのか、
サクは不安定な地面を気にせずに軽々とシリアを抱きかかえる。


「先鋒は僕に任せたまえ。」


まず最初にクロードが飛び、続くサクとクリス。
両翼を追うようにソウジとメノウが飛ぶ。

一方のロックハートはそのまま、崩れ続ける斜面を駆け下りて行く。
狙う手段はただ一つ。


『ォオオオオオオッ!!!!』

「――――――阿呆が。」


走りつつ、半身を捻る。
と、共に右手を柄尻に、左親指は鍔に添える―――



つまりは





『ガァあああっ!!!』


「風を使うまでも無い―――消えろ。」



疾走抜刀術!



『が・・・・・・ぁっ!!!』

「!」


深く入っていない―――!
軍服の下に鉄板か鎖帷子を仕込んでいたのか・・・
加えて、坂道という不安定な場所も影響したのか・・・


だが、お構い無しにそのまま押し切る!


「は・・・ァアアアッ!!」


その時、何かが頭目掛けて飛んでくるのを感じた。


「!」


ダンッ!


「!?」

超高速で飛び上がり、何かを視認する―――

「―――これは・・・」

明らかに動きが異なる石つぶてが3つ。

「チ・・・ッ」

そのまま風の力で滑空し、先に飛び降りた仲間の下へと降り立つ。

「ロック・・・!」

「動くな・・・・・・お前が狙われる。」

他のメンバーも分かっているのか、
大男を気にしつつも、周りの気配を探っている。

「・・・・・・どうやら・・・僕たちは、
 思い切り罠にかかったのか、取り囲まれてしまったみたいだ。」

突如現れたのは、何十人もの人間―――
この村の住人達か・・・

その中の数人が、さっきの大男をかばうように立ちはだかっている。

「・・・・・・これはちょっと、面倒だねぇ・・・
 クリス姫の願いも訊いてもらえそうに無いな・・・・・・」