ACT.176 トルレイト/王


「・・・・・・民間人には手が出せないね・・・」

大男を守るように十数人の住人達が立ちはだかる。
これでは、退くしか手は無い。

だが、1人―――容赦しない男が居る。

「フン・・・・・・」

ゆっくりと刀を抜き、切先を突き出す。

「民間人だろうが、こちらに刃を向けるというなら・・・
 ただでは済まさんぞ・・・
 これが後に侵略行為と罵られようが知った事では無い。」

『な・・・何だ、お前は!』

退くと思っていた相手が、躊躇する事無く刃を向けている。

「・・・胴体を斬り割いて殺すぞ。」

「ロ、ロックハート・・・
 これはやるべきではないぞ・・・納めたまえ・・・!」

これは脅しだ―――それはクロードも分かっている。
けれど、本当に攻撃して来た時は―――実行するに違いない。

「・・・・・・退け。
 その男から離れて、消えろ。」


ザッ!


『王宮兵様はこの国をお守り下さる方だ!』

「・・・・・・なるほど・・・」


ここに居る全ての人間は、
この国がどれ程の悲劇を生んだのかを忘れたのか。


「おい・・・ロックハート・・・!」

「何も知らない、知らされない―――
 そんな戯言が、いつまでも許されると思っているのなら、教えてやる。」


動こうとせず、疑念も抱かず、ただただ流される人間達が
このトルレイトという国を増長させる。


「・・・国の腐敗は何も政治屋のせいだけではない。
 野放しにする貴様らにも責任がある。だが、貴様らは決して動かない。
 ならば――――――」

右手の刃に風が纏い、次第に巨大化していく。
風は嵐となり、片翼を生み出す。

「――――――殺してやる。」


ドッ―――――――――!


『『『う―――――――――!!!!』』』

「うろたえようが関係ない・・・殺してやる。
 誰からにする・・・?
 子供を盾にして逃げるか?
 それとも、意地でもその兵を守るか・・・?」

その問いかけに、

『うオオオオオオオオオッ!!!!』

一人の住人が雄叫びを上げ―――襲い掛かってくる。

「!」

「な・・・・・・!」


これは予想外だった。
畏れ退くどころか、構わずに突っ込んでくる―――!


「チッ・・・・・・!」

即座に羽を盾にして、弾き飛ばす。
だが、その行動に触発されたのか、
あの大男も含めて一気に波が押し寄せる!

「く・・・!」

「これは・・・・・・仕方ないか・・・っ!」



ソウジも諦め、
刃を返して応戦体勢へ移行する――――――
だが、そこに一人の声が降り立つ。



「退きなさい。」


「「!」」


ザ・・・ッ


「私たちはあくまで、ヒルダンテスの討伐に来たのです。」
 彼らとの接触も交戦も望みません。」

銀の髪の少女が突如、
割って入ってきたことに全員が驚き足を止めた。

『何だお前は・・・!』

『殺されたいのか・・・!』

恐らくは、容赦なく斬りかかってくるだろう。
しかし―――クリスティーナは怯えていない。

「私を殺す・・・・・・か。
 ・・・なるほど、確かにロックハートの言葉は正しい。」

周辺の空気が変質する。
いつものクリスティーナでは無い何かが彼女の中に居るように、
全てを釘付けにしてしまう。

『う、動くな・・・っ!』


「私を誰だと心得る。」



ザッ



「私はソーライト王国次期王位継承者、
 クリスティーナ・シラ・ソーライトだ。」

『ぁ・・・・・・』


魔力による空間制圧―――
魔術士ならば当たり前の挙動だというのに、
クリスティーナのそれは、“上位”とは別の意味を持つように異質なものだ。


「お前たちがこの私に刃を向けるは、つまり、一国を敵に回すこと。
 私はお前たちに殺される覚悟を持って、この場に立っている。」


眼光が―――鋭く射抜く。
気付けば、斧の大男は戦意を喪失し、ひざまづいてすらいる。


「ならば、お前たちもまた、
 その身、一身にソーライトの怒りを引き受ける覚悟があるのだな。
 それでも尚、我が道を阻むのならば、我が刃を持ってお前たちを悉く倒す。」

『『ぁ・・・・あぁ・・・』』

「理不尽か。王になる者の吐き捨てる言葉では無いか。
 だが・・・・・・お前たちの罪はそれよりも更に重い。
 それでもと言うならば・・・・・・良いだろう。」

右手を前に翳す。

「お前たちの死を私が背負う事で、この場を収めよう。」


魔法陣が現れ、光が収束する。
ソーライト王国 王家伝承魔法の一端・・・

純粋無属性の光系統・・・光そのものの魔法・・・


『うあ・・・あああ!!!』

『逃げろォオオおっ!!!!』


さっきまで、強気だった彼らも
その異質に気付き散り散りに逃げていってしまった。


「・・・・・・――――――行きましょう。
 留まっている時間は無いから・・・」