ACT.177 トルレイト/細工
5時間後 トルレイト城下町近郊<リカード隊>
「やっとここまで来れた・・・
予想以上にかかってもうたで。」
露骨な妨害は無かったものの、
時折現れる巡回部隊から身を隠しつつ進んできたために、
必要以上に時間がかかってしまった。
「ま・・・楽に進めるのは、ここまで。」
一歩先を行くサラサが、こちらを見ずに続ける。
「トルレイトの魔導兵器には気をつけなさい。
私のみたいに一撃必殺じゃないけど、面倒なのはいくつか造られてるからね。」
ひらひら〜っと手を振ってるあたり、
さして脅威ではなさそうだが、あまり信用ならない。
「しかし、姫だけでなく・・・
リノンさんまでさらう必要がどこにあるのか分からないな・・・」
かすかに残る記憶を辿るようにリカードが思い出す。
“おまけで”・・・という風でもなかったはずだ。
「そこなんや。
おいキッド、お前の嫁さんは何か特殊技能でも持ってるんか?」
「誰が嫁だよ。
つーか、俺でも知らねーよ。」
リノンの魔術士としての才能は十分なほど知っているつもりだが、
その根源たるものまでは気にした事がない。
「アイツは自分の事を“学校始まって以来の天才”って言うけど、
ただ虚勢張ってるだけかと思ってたぐらいだぜ?
まぁ・・・でも、先生達の扱いが飛び抜けて良かったから、
あながち嘘じゃねーと思うけど・・・・・・」
そういえば、サクと名乗ったアルベルトの側近が言っていた。
リノンは100年に7人現れるかどうかという逸材だと。
「六大執行者ってそんなにスゲーのか?」
「あぁ、それと知り合いっちゅうだけで自慢できるで。
六大執行者は、魔術士として最も恵まれた遺伝性質の持ち主。
生まれながらにして、全ての属性を扱える魔術士になる事が運命付けられる人間や。」
隙は無く、あらゆる属性に対応できる。
例え、自分が放った魔法に対して苦手な属性がぶつけられても、
残りの4属性の中から、新たな手段を講じることが出来る。
一件、器用貧乏にも思えるが、
六大執行者と呼ばれる者は基本として、
全属性でAトリプル以上の魔法を扱える人間を指す。
“深く広く”―――究極の魔術士の大系の1つなのだ。
「へぇ、あの子がそんな凄いのだったとはねェ・・・
主席クラスってのは知っていたけど、
ただの頭でっかちってワケじゃないんだ。」
サラサは一見おどけているが、
リノンの実力の程は十分に理解してくれているらしい。
「あとよー、
通常攻勢魔法と具現魔法と精神魔法の3つ使えるのってどーなんだよ。」
「―――――――――問題はそこですね。」
リカードがポツリと言う。
「・・・その3つの攻勢系統魔法を遺伝的に同時に持つことを許される人間は
属性が3〜4つ扱える者だけだと、メノウから聞いています。」
つまり、リノンはその法則を超越していることになる。
六大執行者にして3つの攻勢系統魔法を持つ魔術士・・・・・・
なるほど確かに希少価値としては、計り知れないものだろう。
「さらった理由が、キッドくんとの戦いを望むためなのか・・・
彼女が攻め込む側として活躍することを恐れたためか・・・
この類稀な能力を欲する都合があるのか・・・・・・」
まだ、分からない。
もしかしたら3つの理由全てなのかもしれないし、
全く違う理由によるものの可能性もある。
『なんだ、うっせーし、臭い匂いがすると思ったら・・・
テメェらかよ・・・』
「「!!!」」
ザ・・・ッ!!
「お前はッ!」
話に集中しすぎて気付かなかった。
眼前に現れた女は間違いなく魔人・・・そして、忘れる訳も無い。
「レオン国王を殺した奴か・・・!」
『ローズだ。覚えときな。
で・・・あんたが裏切り者のサラサ・ハルダイトだって?
殺せって言われて追いかけてたんだけどさ、
ローテルダムとつるんでくるとは思わなかったよ。』
サラサを指名してニヤリと嘲笑う。
滅茶苦茶に毀して、殺してやるぞと言うアピールだろう。
「・・・・・・・・・誰よ、この不細工。見てられないわねぇ。
顔面改造することをオススメするわ。
お願いだから、私の前に出てこないで頂戴。」
と・・・何の臆面も無く、躊躇することも無く、
皮肉である訳でもなく、本心からの言葉だった・・・・・・
『あぁ?なんだって・・・・・・?』
「ねぇ?聞いてる?ウザイのよ。
アンタみたいなブスのクセに自己顕示欲の塊みたいなの。」
(うわ・・・・・・)
(サラサ姐さん・・・
言わんでも良いようなことを・・・)
『んだと、テメェ!!
誰が不細工だ、ゴラァッ!!!』
「くす・・・・・・」
くすくすくす、という文字をいやみったらしく読み上げて笑う。
今度は皮肉だけでなく、侮蔑と嘲笑のミックスだ。
さっきのものとは度合いが違う。
「あら・・・人語通じるんだ。
以外にも話してくれたものだから、半信半疑だったんだけど、
こればっかりは都合が良かったわ・・・・・・?」
『ブッ殺す!!』
爆発する魔力を抑えきれずに、ローズが飛ぶ。
「――――――全く、面倒ねェ・・・・・・」
「・・・・・・サラサ・ハルダイト・・・私に代わってくれ。
こいつを倒して二人を助ける為の足掛けとしたい。」
「あら、お願いできるの?」
本当にめんどくさかったのか、ひょいと立ち位置を変えた。
リカードの戦いを見守るつもりらしい。
『どっちでもいいんだよ!!ぶっ殺してやるァ!!』
「――――――悪いが・・・私は2度も醜態は見せない。」
短い忍刀を右手に、
左手は拳を握り締め引き手として構える。
『うらぁあっ!!』
急降下の加速を得たローズの右ストレートが叩き込まれる!
「ッ!」
『オラァッ!!そのまま潰れろ!!』
「―――――――――!」
短刀で上手く力を受け流しつつ、反撃へ出る!
「爆ぜ、屠れ――――――!」
『!』
ソウバクテン
火 遁 喪 爆 天 ! !