ACT.179 トルレイト/発光


数分前

「オイオイ・・・
 何かスッゲー、魔力出てんだけど。」

というのは、自分達が走ってきた方角・・・
つまり、リカードの戦闘だ。

「こら、大技キメよるつもりやで。」

「大技ってアレかしらねぇん?
 “十字眼<クロスアイ>”とかっていう法則無視の破壊技。」

サラサの指摘にブラッドは一瞬驚いた。
技の概要を知っていても、それに関わる名前まで知っていることに・・・

「何の事やらさっぱりや。
 そないな技はあらへんて。」

「あらあら・・・とぼけたって無駄よ?
 色黒ボウヤだって持ってるじゃない。
 その眼の模様は一体なんだっていうのかしらね?」

「せやから知らんって言うてるやろ?」

今、ブラッドの瞳にそんな模様は浮かび上がっていない。
反応を確かめる為のブラフ・・・
ちょっとした誘導話術の基本だ。

「お前、ウソついてんじゃねーか?」

「そないなワケあるかい!
 そもそも、法則無視の破壊技なんぞ、
 使えたところで術者の身体がもたんっちゅーねん!」

それもそうだよなぁ・・・とキッドは納得する。
だが、1つだけ気になる。

「そーいや、ユーリケイルでゾンビと戦ったときに
 スッゲー技使ってたけど、あれはなんだったんだよ。」

「(こんな時に勘の鋭くなんなや・・・)
 あれは、ナイフを媒介にした魔力の塊を突き刺して、爆発させたんや。
 魔物の身体は硬いから、お陰で8割以上の魔力使ってしまうけどな。」

実際は、本当にブラッディクロスを用いたが、
原理としては似たようなものなので、ウソでもない。

「そうだったのか。スゲーな。」

「せやぞ。
 お前が思ってるより、俺は強いんやで。」








数十分後<ソウジ隊>

「よし・・・」

漆黒の城が聳え立つ、トルレイトの拠点・・・
これこそがトルレイト城なのであるが、
国の名を冠してはいるものの、首都ではないのである。

その城下町目前―――

「警戒されているようには見えんな・・・・・・」

「まぁ、妨害はしてくるだろうけれど、
 ここまでの流れを考えれば・・・大した事はなさそうだ。」

最も気にしなければならないのは、ヒルダンテス直属の部下達だろう。
特にカタルカスなどの、元から実力があった魔人は要注意である。
その一人だけで十数人分の力があるのだ。

「さて、どうするんだい?
 格好よく、正面突破でも仕掛けて行くかい?
 ヒルダンテスが今も居るかは分からないけれどね。」

「いや・・・その心配は要らん。
 間違いなく、あの男はこの城に居る。」

右手の刻印が、この城に近付くにつれ、発光を強めているのだ。
クリスティーナも同様に、半年前と同じ胸騒ぎを感じているらしい。

「・・・行くしかありませんわね。」

「ああ・・・
 一つでも穴を開けてしまえば、あとは雪崩式・・・
 味方の増援が間に合えば、落とすことも可能だろうね。
 (それが本当に出来かねない程度の守りの薄さが気になる・・・・・・)」

あまりに相手の意図が不明瞭だ。
こちらを攻撃してこないのは、
自ら飛び込んできてくれるクリスティーナを歓迎する意図があるのか・・・

しかし、それではロックハートが間違いなくついてくる。
このゼロの剣士の力は絶大だ。
魔人クラスでも斃すは難しいかもしれない。

その上、免許皆伝である自分―――ソウジ・イムラがいる。
知名度の高さぐらいは自負しているつもりだ。
そういう要素を招き入れる意図が・・・掴みきれない。

「・・・・・・迷っても仕方ないか。
 どうやら・・・僕らには真っ直ぐに進む道しかないようだからね。」