ACT.42 抗争/亀裂


数分後
「無事だったか。」

「もちろんッス、先輩。城の方は?」

「あの場に居た全ての人間を隊長達が取り調べている。
 だが、どうやら城壁に爆弾が設置されていた訳ではなさそうだ・・・」

「は・・・・・・?」

「じゃぁ・・・魔法で?」

この世界では実体物質で無いなら魔力物質と考えるのが当然である。

「・・・半分当たりだな・・・」

ザッ・・・

「ソーライトのあの事件時も見た事がある。あの爆発は魔道砲の簡易型によるものだ。」

「ロックハート様、それって何なの・・・?
 (全然知らないよ、そんなの。結構ショックかも。)」

「・・・魔道は知っているな・・・この地上界と魔界を繋ぐ道の事だ。
 魔道砲はまさにその魔道を造り出す兵器・・・」

「・・・はぁ・・・?破壊力ねぇだろ?魔道はヤバイ存在だけどよ。」


ヤバイ、というのは大気中の魔力濃度が圧倒的に濃く、
魔物などの生命体以外では細胞が耐えられずに即死する事すらあるからだ。


「・・・・・・これだから、アホは困る。」

「何」「バカ、黙ってなさいよ。」

「・・・魔界にはこの地上界の数十倍の大気魔力が存在している。
 地上の大気魔力は濃度的にも人体に影響はないものの、魔法発動の助力になる存在だ。
 マッチで炎を燃やす時に酸素の助けを借りるのと同じ事だ。」

「「「フンフン。」」」

分かってんのか?

「・・・魔道を作り出せば、その空間は魔界とほぼ同等の条件になる。
 魔界から続く道なのだから当然だな・・・?つまり・・・」

「その魔道を標的まで延ばして、中級以上の魔法をそのラインに乗せて放てば、
 魔道に含まれている大気魔力により驚異的な破壊力を生み出す・・・
 という訳ですわね・・・?(知らない振りした方がリノンちゃんにはいいかしら)」

「・・・その通り・・・ただし、それはソーライト事件の際に使われた
 『城を破壊する事』を主眼としたものであって、今回の様なケースだと、
 魔道の球体を作り出して巨大な起爆装置にして当てたといった所だろう・・・」

「なるほど・・・だから、あの時強い魔力を感じたのか。」

ソウジは知らなかったようだ。元より魔法関係に関しては少々疎い。
自分の中にある魔力もたかが知れ居ているレベルであるし、
神刀流で魔力を扱う術式など殆ど無いのである。

「恐らく砲撃地点はあの丘の上・・・警備は全て殺されているだろうな。」

「って・・・人事じゃねぇだろ・・・生きている人がいるかもしれねぇ。」

「そんな事は百も承知だ・・・だが、俺たちにはやるべき事がある。
 コーデリア姫の安全確保だ・・・警備兵の事は後に回せ。」

「は・・・・・・何言ってんだよ!?」

辛うじて重傷の人間を見捨てることになるかもしれない。
なのに何故そうまで冷静に言える・・・?

「お前・・・助けるのは当然だろ?!」

「・・・お前は何も分かっていないな・・・
 国を守る意志で騎兵隊などの軍に入ったのなら死をも覚悟していて当然だ。
 殺されたとて文句は言えん。それが軍」

ガッ!

「・・・俺は・・・一般人だ!だから、死にそうになってる奴は見捨てねぇ!」

「俺に触るな!無知の阿呆が!」

キッドの手を突き放す。

「誰が見捨てると言った。優先順があると言っただけだろうが。」

「姫の命は大切なのは分かってるよ!けどな、助けるべき命は平等だろうが!」

「キッド・・・止めろ。言い合っている場合じゃない。」

ソウジが制止するが、止まらない。

「ロックハート!姫を守る為に戦ってた事があるんだろ!?だったら、分かるんじゃ」


バキッッ!!         ズザッッ!!


「―――――――――ッ!!!」

思い切り殴られ、地面に伏す―――

「なっ・・・!!」

「キ、キッド様!」

「・・・過去形にするな。今も俺はクリス姫を守る為に戦っている!
 そして知ったような口を利くな・・・平等な事ぐらい、分かっている。
 だが、そんな薄い正義感で動いて何になる。
 姫には悪いがな、俺はこの国を守る為ならあなたも利用する。」

「「――――――!?」」

「あなたの理想は崇高だ。俺も信じるし、だからこそ守ろうと思う。
 だが、この国を守る為にはあなたに人柱になって貰わなければならない。」

(違う・・・これはこの男の本心じゃない・・・)

「そうしなければ連中は更に増長し、いずれはソーライトと同じコトが起こる。
 現に今その中に居る・・・正に同じ状況だ。」

キッドの胸倉を掴む。

「ぐっ・・・!」

「優先すべきは姫の身の安全―――、
 すべき事は姫を如何にして『女王に仕立て上げるか』、だ。
 兵士の1人や2人が死んだ事など気にしてどうする・・・」

「て・・・めぇ・・・!」

「・・・・・・そう云う眼はな、何も守った事のない」

ガシッ

「ロックハートも止めろ・・・!言い過ぎだ・・・
 お前とキッドでは今までの生き方が違うのだから、考えも違って当然だろう?」

「・・・・・・・・・お前もこのアホと同意見の様だな・・・」

「・・・生憎、僕もただの一般人なんでね・・・」

「・・・・・・やはり、お前達と居ると調子が狂う。」

手を放し、僅かに離れて振り返る。

「「――――――!?」」



「・・・・・・紅の刻印はやはり殺させてもらうぞ。」



「「「なっ・・・―――――――――?!」」」