ACT.63 修行/1人だけで
「何なんだ・・・この空間は・・・」
「うお・・・っ・・・脚が重てぇ・・・」
ズ ・・・・・・ッ!
「これは・・・重力魔法・・・!」
黒紫色の半透明の結界がキッドとロックハートを包んでいる。
「流石、魔術士だとすぐ分かってくれるねぇ。
アタシは魔法もそこそこ出来るからね。」
そこそこでできるものでは無い―――・・・
教員レベルですら扱える人間は少ないのだ。
もっとも、私も使えるけど、とリノンは付け足すことができる。
「・・・それで、ここでどうしろと?」
「まさか、重力何倍の中で筋トレでもしろとか・・・?」
「アンタ達・・・結構、同じぐらい鈍いんだねぇ。さっき言っただろう?
アンタらは魔力を練り切れて無い、扱いきれて無い・・・って。
だから、この特殊な空間・・・まずは通常の2倍の重力の中で、
一番最初にやってもらった様に魔力を手の平に集中するのさね。」
「・・・・・・フン・・・・・・」
「そんぐらい、簡単に出来るっての。」
それぞれが、手を前に出し魔力を集中させる。
球体が次第に生まれる。
しかし・・・・・・
「「――――――!」」
ズるゥ・・・・・・ッ!
「・・・これは・・・」
「重力で魔力が崩れた・・・?」
しかも2倍の重さになっただけで―――
「簡単に出来るんじゃなかったのかねぇ?
魔力は森羅万象あらゆる物質と同じく、重力の影響を受ける。
まぁ、重力の魔力はその属性を持っているから、
プラス(加重力)にもマイナス(反重力)にも出来る特殊な状態だけどね。
ともかく、通常重力下でやるよりも加重領域内で魔力を練り上げる方が鍛錬になるのさ。
自分自身に加わる力に対しての、忍耐力も付くしねぇ。
そいじゃ、嬢ちゃん。この鈍い2人に見本を見せてあげな。」
「上手く出来るか分からないけど・・・」
リノンが重力場に入り、準備をする。
「―――――――――。」
「魔力が均等に身体に配置されて、手に集まってきてるねぇ。」
キュゥ・・・・・・ ウウウウッッ!!
「うおお!」
「・・・ほう・・・」
「ま・・・こんな感じかな。少し、カタチが崩れてるけどね。」
「上出来さね。加重力の中で球体をこれだけ綺麗に生成出来れば大したモンさね。
それじゃ、あんた達2人はその中で頑張るんだね。」
「うッス!」
「けど、30分に1回は外に出ないと、足元に血が溜まって死ぬよ(笑)」
「んなっ!」
「・・・そんな危険な事をよくも・・・」
「・・・何言ってるのさ。戦いってのはこれ以上に危険なコトと常に隣り合わせ。
緑髪のボウヤなら特によく分かってるだろう?
そいじゃ、嬢ちゃんはこっちで別メニューさね。」
・・・・・・。
「やるしかねぇよな・・・・・・」
「・・・チッ・・・さっさとメニューを終わらせてやる。」
「それで・・・私には具現魔法を?」
「あぁ、そうだよ。」
「でも、魔術師でもないと・・・」
ビッ。
「・・・うわ・・・魔術科教員免許・・・」
差し出されたのは世界で通用するレベルの免許―――
実はリノンが目指しているものでもある。
「剣も魔法も出来るなんて・・・」
「アッハッハ。
だから、アタシがイムラ家始まって以来の天才と呼ばれた所以さね。
もっとも、カエデの方が全てに於いてアタシより上だったけどねぇ。」
(・・・この人・・・すっごい自信家・・・)
「そいじゃ、まずは・・・腕を組んでみな。」
「え・・・?腕・・・ですか?
(ホントにソウジさんの親族・・・?キャラ違いすぎ。)」
「そう、さっさとやりな。時間が勿体無いよ。」
スッ・・・
「次は手を組んでみな。」
再び言われた通りにする。
「・・・ビンゴ。
嬢ちゃんは具現魔法の発動・形成に必要な想像力に長ける右脳だね。
そして、手の組み方は逆だった・・・
つまり、自分でオリジナルの魔法を作ることも出来る理論的思考も兼ね備えている。」
(組み方で右脳か左脳かって言うやつかァ・・・
あれって、そこまで信憑性があるわけじゃないんだけどなぁ。)
「なんだい、その顔は・・・?
百聞は一見にしかず。具現魔法の特訓なんてやったことないんだろう?」
「それは、そうですけど・・・」
「ならやってみたら、自分に合ってるかどうか分かるじゃないか。」
「・・・・・・そうですね。やります。
(やってみなきゃ・・・分からない・・・
じゃなきゃ、キッドを助けられないじゃない。
1人だけに辛い思いなんてさせないんだから。)」