ACT.74 チェイン


翌日 7月26日

「おりゃあああああっっ!!」

「だから・・・そうじゃないよ!」

バキッィッッ!!!

「痛ぇっっ!!」

何度吹っ飛んだだろうか。

「ボウヤ・・・だんだんと頭が悪くなってるのは気のせいかい?」

「いや・・・前からバカだと思うが・・・」

「んだと、テメェ!」

「ボウヤは反論できないね。
 リノン嬢ちゃんは、具現魔法の第一段階をとっくに終えて、
 『魔術士』から『魔術師』への昇格の境目・・・第二段階の中盤に入ってる。
 そこからはメノウに任してあるんだけどね。
 ロックハートの坊やもこっちの第二段階で剣術と刻印の併用訓練さね。」

「くそっ・・・・・・」

立ち上がり、構える。

「・・・・・・1つだけアドバイスしておいてあげる。
 今のボウヤはボウヤらしくない戦い方をしているねぇ。」

「・・・・・・?」

(・・・キッドらしい戦い方・・・だと?)

「ボウヤには“見えないモノ”を“見る力”があるハズさね。
 ただ、この訓練は自分から仕掛けないとダメだから、
 1つの方法が封じられているんだけどねぇ。アドバイスは終わり。来な。
 (そう、あの2人の息子であるアンタなら持ってるはずなんだよ。)」




同刻
「はっ・・・はっ・・・・・・
 (どうしても揃える事が出来ない・・・
 体積を小さくしつつ、威力をある程度保持するようにしてるけど・・・
 それでも具現魔法の魔力消費量はバカにならない・・・)」

ザリッ・・・

「今の私の魔力じゃ、
 バルキリーの同時発動は10が限界・・・どうすれば・・・」

「ファイトだョ!」

それじゃどうにも出来ないが、ないよりはマシだ。

「メノウさん・・・どうすればいいですか?」

「んー・・・そうですわねぇ。ファイトですわね。」

「・・・_| ̄|○」

仕方が無いので詠唱の練習に戻る。

「槍を携え進む者・・・!!ゲイレ」

「ストップ。さっきのは冗談ですわよ。
 今、あなたがやろうとしているのは5段階の内、
 上から2つ目のAクラスに属する『A+++(Aトリプル)』魔法・・・」

+の数は最大で3つ。+が多いほど上級なのだ。A<A+<A++<A+++となる。
ちなみに+はプラス、++はダブル、+++はトリプル。

「学校魔法はせいぜいBトリプルまでですわね。」

「多分、そうだったと・・・」

多分、というのもリノンは教科書魔法以外にも
独学で高域魔法を勉強しているから境目が分からなくなっているのだ。

「・・・私がやるより、姫に見本を見せて頂いた方が、いいかもしれませんわね。
 姫、“チェイン”で3つやって頂けますか?」

(・・・?)

「3つ?
 でもコーディ、具現魔法同士でチェインは出来ないから、2つはフツーでいい?」

「ええ、構いませんわ。」

(チェイン・・・・・・?
 そんなの知らないし、それを姫が使えるの?)

「・・・・・・よぅく、見ててョー。」


ザッ・・・!


「・・・“神速の魂、駆け抜け”」

(これは・・・神速のライガー!
 このあとに続く言葉は“大地を穿て”で発動・・・)

「“焔の爪宿し、斬り裂き”、“瀑流に亡骸を沈めよ”!ストライクライガー!」

(え・・・?そんな、無茶苦茶な詠唱で創れるハズ無い!
 そもそも具現魔法は最初から自分の魔力で属性を持たせて、
 その上で創り出さなければならないのに・・・!)


ドッッ!!


「―――――――――!」

黄金の身体を持つ獣――――――

「おはよ、ライちゃん。あの岩にアターックッ!」

“フレア・スラッシュ。”

火炎を纏った強靭な爪で岩を斬り裂き、直後に地面の様子が変わる・・・

“デザート・ヘル。”



ズ・・・   ボフッッ!!!



「あ・・・蟻地獄・・・・・・?!っていうか・・・そんな・・・」

岩が地面の中に消えていく。

「魔法の種類が何であれ、数種の効果を加えたりする事が出来るのが、
 魔法詠唱鎖発動術式・・・“チェイン”ですわ。
 これを使いこなせれば、無属性の具現魔法にその時々によって力を与える事が出来る。
 また、水と火といった対抗属性にすら上手く行けば、付加可能。
 具現魔法と通常攻撃魔法に特化したリノンさんの魔力なら、
 更にその効果は増しますわ。どうです?」

「すごい・・・・・・でも、使えると思います。
 いえ、使ってみせます。」