ACT.75 前日


「基本的に魔法は、発動場所を決める『指定』、魔法の性質などを決定する『詠唱』、
 詠唱と同時に魔法の威力を決定する『魔力圧縮』・・・
 そして『魔方陣生成』からの発動の4行程によって成り立っていますわ。」


詠唱省略の場合、魔方陣生成だけであとの効果を作り上げてしまう。
魔方陣自体にも詠唱と同じ意味が含まれており、
魔方陣を理解しておけば詠唱をなくす事が出来る。

だが、一般人ならば、単なる炎の魔法ですら詠唱しても難しい。


「はい。でも、さっきのは詠唱を・・・」

「そう。詠唱を終了させずに別の魔法の詠唱をしたのですわ。
 それによって、2つ以上の性質(効果)を持つ事が出来るのです。
 他にも利点がありますわ。1つは、『指定』の際に消費する魔力を軽減出来る。
 『指定』には、思っているよりも多くの魔力を使いますわ。」

「ええ。」

「魔法は空間に一度、魔力を配置し、
 その周りに詠唱と圧縮で効能を付加し、魔法陣生成で安定させ攻撃する。
 もし、炎魔法を発動し続いて別魔法を発動した場合、
 2度も『指定』に魔力を使う事になり、非常に無駄ですわ。
 でも、チェインなら最初に詠唱する魔法の時に指定し、
 詠唱を完結させずに繋げて詠む事によって、例え別の魔法でも指定せずに済む。」

同じ場所に別の物を積み重ねるイメージ・・・だろうか。
土台が出来ていれば、それだけ軽減していける。
無論、積み上げすぎる事と逆効果になるとも言える。

「2つ以上の効果、『指定』に消費する魔力の軽減・・・
 そして、具現魔法への効果の付加。」

「・・・?
 それは、単に2つ以上の効果と同じじゃ・・・」

「違いますわ。姫が見せてくださったライガーの攻撃。
 あれは、『具現魔法が使用する魔法を術者が与え』ているのです。」

「―――――――――?!」

「こう言えばいいですわね。
 『具現魔法が自ら、術者から与えられた魔法を発動する』と。」

「!・・・・・・。」

「もちろん、これには具現魔法に意思を持たせていなければ出来ません。
 けれど、それさえ出来れば、具現魔法にとっての弱点属性に対抗出来る
 魔法を与えてあげる事が出来るのですわ。」

※意思を持つ具現魔法はそのままでの発動の場合、自属性の魔法しか使えない。

「凄い・・・そんなコト聞いた事なかった・・・」

「学校魔法で教えるには余りに高度で危険を伴いますから。
 きっと、リノンさんがご自身で勉強された書籍にも載っていなかったでしょう。」

「私が知ってるのは、姫としてのキョーヨーだからだョ。」

(妙に強調してると思うのは気のせいかな・・・。)

「さぁ、リノンさん。チェインの意味をある程度分かったと思います。
 その特性を考えれば、あなたが今やろうとしている事が出来るハズですわ。」

「・・・はい。もう、大丈夫です。」


ザッ・・・


「それでは、あなたの発動能力を高める為に重力を上げさせてもらいますわ。」

「はい。お願いします!」

「無を揺るがす也、大氣掌握。」





そうして、この日の修行も終わった。

「情報では約1200kmの地点に本体が、
 もう少し近くに先遣隊が居るとの事ですわ。」

「「先遣隊・・・?」」

「・・・二中隊程度の規模で来る前線偵察が目的の1つだ・・・
 そして、後続の本体に状況を提供し、戦闘が始まる。つまり、裏を返せば、」

「先遣」

とキッドが言った矢先に

「先遣隊を倒せば、こっちが有利になるかもー!」

「その通りです、姫。」

(また・・・取られた・・・_| ̄|○|||)

(目立とうと必死ね・・・)

(本当に可哀想になってきましたわ。)


がたっ!


「んで、俺たちはどーするんすか!?」

「そんなに声を上げなくてもいいだろうに・・・」

「・・・スンマセン・・・・・・
 (やっぱ、俺主役じゃねぇの・・・?)」

多分、主役です。

「ユーリケイルの中隊と僕、ロックハート、キッドは先遣隊を迎え撃つ事になっている。
 だが、お前はまだ終わっていないんだったな・・・」

「そッス・・・」

(うわぁ・・・すっごいテンションダウンしたョ・・・)

姫の割り込みも効いていると思うんだ。

「メノウさんは、姫と共に本陣でお願いします。」

「分かりましたわ。」

「おばあちゃんもお願い出来るかな。」

「当然さね。この老いぼれで良かったらねぇ。」

(((そこらの若者より強いって!)))

むしろ前線に出て欲しいとさえ思う。

「それから、リノンさんは・・・」

「私も前線に出ます。その為に訓練をしたから・・・」

「・・・分かった。ただし、無理は禁物だよ。
 僕は魔法を全く使わないし、魔法を併用した戦いには慣れていない・・・・・・
 そうだ、ロックハート。彼女をパートナーにして動いてくれないか?」

(なっ・・・!)

「・・・分かった。」

(何で、オメーとリノンが一緒に動くんだよ・・・)

何故か腹が立つ。
というより、“ロックハートと” というのが嫌だ。

「キッド。
 衝突予想時刻は正午頃だ。それまでに終わらせて来るんだぞ。」

「大丈夫ッスよ。3倍に強くなった俺を見せるっス。」

(どーいう、理屈で3倍よ。)

(炎が赤いからかなぁ。『赤いと三倍』っていうの聞いた事あるョ。)

(はは・・・)