ACT.85 大戦/焔臨


「貴様・・・・・・」

『あぁ・・・スミマセン。
 僕は一応魔力は持ってます。微量で貧弱ですがね・・・
 だから、使える魔法も限られているんですよ。』

「っ・・・・・・」


ぐりゅッ。


(この液体・・・かなりの粘着質を持っている・・・
 まとわり付いて、動かせん・・・!)

動かすほどに固まっていくような感覚もある―――
危険だ―――。

「ロックハート君!今すぐ、焼き払うから!」

『そんなコトしたら・・・殺しますよ・・・?』

「―――――――――!」

『勘弁して下さい・・・
 市井の女の人を斬るなんて真似はしたくないんですよ。
 あなたの力は十分に見せてもらいましたから、今は剣士同士で戦わせて下さい。』

(この眼・・・・・・
 なんて威圧感があるんだろう・・・笑っているのに・・・)

『さて・・・
 この程度で終わってもらっては、困るんですよね。』

「(何・・・・・・?)
 嘗めるな・・・・・・この俺とこの力をな。」



ド !! ビャッッ!!!



『うわ・・・・・・!』

固まりかけていたゼリー状の束縛物を一気に弾き飛ばす。

『体中から魔力を放出なんて無茶な事を・・・』

ただ飛び散るだけではなく、飛沫になって吹き飛ばすことで、
即座の再詠唱による再発動を防ぐ事が出来る。

「悪いな・・・
 俺はつい半年前までゼロだったんでな、」

体勢を整えるや否や、一足飛びで斬りかかる。

「俺に魔法の常識は通用せん!!」

『なるほど。
 敵の魔法発動のタイミングが分からないんですね。』

「―――――――――!!!」

ロックハートとシンの間2メートルほどの範囲の地面が盛り上がる。

『“大地の抱擁、束縛せよ”。ストラクチャーバインド。』

「なっ・・・!?」


ズ・・・ゥンッッ!!


「くっ・・・!」

岩や土が身体を束縛し、自由を奪う。

『何だ・・・
 剣は一流だけど、ゼロだったせいもあって魔法に対してはダメなんですね。』

「くっ・・・
 ・・・何故・・・これほどの力の魔法を・・・」

今度は手を握り締める事が出来ないので風を起こせない―――

「この人・・・・・・確かに魔力は余り以っていないけれど、
 使える技の効果を最大限に引き出せている・・・
 通常、魔力を多く持っているから、魔法を広く覚え使うことが出来る。
 けれど、深く覚える必要は余り無い・・・
 なぜなら、苦手な魔法に対しては広く覚えた魔法の中から選べばいいから・・・
 魔力が殆ど無いのなら、どうするのか。狭く、でもその技を深く覚えればそれだけで、」

『そう、さすがは専科の学生さんだ。
 もしかしたら、君にも勝てるかも・・・ですよね。リノンさん。』

「ッ・・・・・・」

チャキ・・・

『さてと・・・・・・魔法を先に使ってきたのはあなたですし、
 こうやって斬られても文句はないですよね?』

「チッ・・・
 (刻印魔法は詠唱を使わない代わりに発動条件が必要だ・・・
 故にその動作を封じられてしまっては使うことは出来ない・・・)」

『菊姫に斬られても何ら痛みはありませんから。
 むしろ、スッキリしますかもね。』

「・・・・・・
 (だが、それに対する対処法とて無い訳ではない。)」

『辞世の句ぐらい言ってもいいのに、強情な人だ・・・・・・
 まぁ、いいや。あなたは僕が期待するには足りない存在でした。
 それだけのこと・・・!!』



ド ド ド ド ド ド ッ ッ ッ ! ! !



『――――――!!』

「「「な・・・何だ・・・!?」」」

「爆発・・・!?」

『(やっぱり・・・)
 ・・・君もその不思議な魔力を持つんですか。』


爆煙が晴れていく。


「おう、よくも俺の手下をイヂめてくれたな、バカヤロウ。」

「・・・・・・・・・誰が手下だ・・・アホが。」

「あー?
 オメー、そんなコト言っていいのかよ。」

ボゴォッ!!

「――――――!」

キッドの爆破でひび割れた岩の束縛が
その形通りではなく、粉々になる―――。

「ほらよ、なっさけねーな。おい。」

「・・・・・・フン。」

『・・・凄まじいほどに精錬された魔力ですね・・・
 束縛壁が壊れてもおかしくないや。
 たった数日で変化が見られるとは・・・ちょっと別人の様ですよ、キッドさん?』

「うるせーよ、バカ。」

次は負けない―――という眼を持って向き合う。

「お前を倒す。」

『・・・へぇ・・・
 本当に僕と・・・殺りあうつもりですか?』

「じゃなきゃ、ロックハートのバカヤロウなんて助けねぇ。
 ちょっとだけ強くなった俺の力・・・見せてやる。」