ACT.86 大戦/天翔
「キッド!」
「悪い、待たせたな。」
「待ってなんか無いわよ、バカ!」
ザッ―――。
「そう言うなって。
こっちは必死で間に合わせたんだからよ。」
『間に合わせた・・・といえば・・・その刀・・・
それ・・・前の刀とは拵えが似ている様ですが、別物ですよね。』
遠目に見える刃紋だけで別だと見破る。
目利きが出来る事も剣士としては重要な素養だが、
シンの口ぶりではその刀の名前ですら分かっていそうだ。
「ああ・・・・・・」
『危険な空気がしますね・・・
・・・以前のは、大業物「天翔」に似た物でしたが。』
「・・・刀の善し悪しも重要だけどよ、
そんなコト関係無しにオメーは俺がぶっ潰す。」
『・・・・・・まぁ、それもそうですね。
実際に受け取ってみて試してみますよ。
あなたも彼と同様にどのぐらいの価値があるのかをね。』
眼前から姿が消える。
だが、慌てない―――今度は冷静に見る―――。そう、
(・・・見える・・・)
『二度も手抜きはしませんよ!』
手を抜かれる事など、もうない。
(・・・空間が座標みてぇになって・・・)
『シッ!!』
「(剣の“来るべき”軌道が分かる―――!!)
そこ・・・・・・――――――だっ!!」
ガキィィィ・・・・・・ ンッッ!!!
『―――――――――!?』
明らかにシンの剣閃は凄まじい速さ、それこそ神速だった。
だが、キッドの刃が―――
「う・・・嘘・・・・・」
その軌跡を最初から知っていたかの如き移動で食い止めている。
「・・・バカな・・・・・・
(あのタイミングで受け止めた・・・だと・・・)」
ギギッッ・・・
『す・・・凄いですね・・・
重心の移動を・・・それこそコンマ秒レベルで見ていたんですか。』
「ああ。」
『!・・・(コレは参ったなぁ・・・
冗談でコンマ秒なんてカマをかけたのにまさか本気で返されるなんて・・・)』
重心を見ていた事は把握しているが、
まさか本当にそう云うレベルで見られていたとは思わなかった。
いや、思えなかった。
「何驚いてんだ。
重心とは全く関係の無い方向には人間の身体じゃ、絶対に動けねぇからな。
でなけりゃ、脚がブッ壊れるからな。」
『・・・とてもいい目をしていますね・・・
そして肝心の刀の方は・・・・・・―――――――――なるほど・・・』
未だ続く鍔迫り合いで確認して確証した。
『・・・・・・スネイク・ベルビオスの愛刀にして、
幾多の戦乱を切り開いたという大業物“天翔(あまかける)”・・・ですか。
・・・・・・怖い人だ・・・』
それはお世辞や冗談ではなく、本気の言葉―――
だからこそ、傍で聞いているリノンには
「な、何がそんなに凄いの・・・?」
その意味がわからない―――。
「・・・以前にキッドが持っていた物は職人は同じだが質は低い。
もっとも、その質の低い刀自体をあのアホが持っている事がまず、
驚くべき事だが・・・本物なら尚更だ。
俺の“蒼星”やイムラの“劉奏牙”と同時期に作られた120年以上前の代物だ・・・
だが・・・あの天翔だけはレベルが違う。
価値をつけるなら、国家1つは手に入れられる規模だな・・・」
「そっ・・・
そんなもの・・・一体どこで・・・」
チャッ
「ばーちゃんに貰った。」
と、本人は全くその価値を知らないからサラッと言いのけられるが、
きっとそれを知ったら足に落として刺す勢いだ。
『・・・神刀流第24代目総師範・・・
最強の女流剣士、桜華のミサト・・・ですか?』
「そう、その人。」
『コレは予想外ですね・・・・・・
早急に手を打たないと困った事になってくる。』
「?」
『・・・気にしないで下さい・・・
僕の仕事のひとつが終わったという事ですよ。
あとは・・・・・・あなたを倒させてもらいます。』