ACT.88 大戦/翔ける焔
『行きます・・・・・・』
瞬時に姿が消える。
「キッド!!ボーっとしてたら!」
「見てろって・・・・・・」
『遅い・・・ですよ。』
超高速移動―――既に眼前3m!
最早、速さに関して手加減などする気は無い。
『終わりです。』
「―――――――――。」
『!』
ズ・・・!! ・・・ザァアアッッッ!!!
「え・・・?
外した・・・・・・?」
シンが思い切り突いたのだが、その先が外れ、
高速移動のまま地面をスライドした。
「・・・・・・どーしたよ、コラ。」
『? ? ?
(一体どうして・・・僕があんな絶好のタイミングを外す・・・?)』
当の本人ですら判らない。
ただ、何かの違和感に襲われた。
「・・・やっぱな、当たったぜ。
ばーちゃんに教わって大正解だった。」
切先をシンに向け、正面に構える。
そして、右手指を軽く鳴らし、炎が生み出され、
魔力の炎が大業物“天翔”を包み込む―――
『?!』
驚異的な魔力に驚き、
一足飛びで10mも離れるが、その間にキッドは
「いっ、けぇッ!!」
力を込め、咆哮と共に刃から強大な火炎が放出される。
「これが俺の最初の技だ!!!」
フ レ イ ム バ ス タ ー ッ ! !
『なっ――――――――――――!!!!』
ド ギ ャアア ア ア アア ア・・・ッッッ!!!!
「「「なんじゃそりゃーーーーーッ!!!」」」
唖然とするユーリケイル軍―――。
「ア・・・ハハ・・・・・・」
何も言えない幼馴染。
「・・・メチャクチャだ・・・」
もっとも冷静な男でさえ言葉を失うその焔撃―――。
その暗中、ようやく煙が晴れてゆく・・・
『く・・・・・・』
「・・・・・・・・・どーだ、この野郎・・・」
『・・・掠り傷程度で済みましたよ・・・』
「!」
ザ・・・リ・・・ッ
『ハ・・・ハァ・・・ッ・・・
・・・しかし・・・驚きました。
あなたも同じ様に異常な魔力を持っているんですね。』
殺気の消えた笑顔で残念そうに自分の刀を納めている。
勝った―――。
『参ったなァ・・・
このまま撃たれ続けたら、身が持たないですよ。速過ぎる。』
「へっ、だったら軍を退かせろよ。」
「そして、お前は投降しろ。
聞きたい事が山ほどあるんでな・・・」
『あぁ、軍は一度、退かせますが・・・
捕虜は勘弁して欲しいです。』
「ワガママ言ってんじゃねぇぞ。」
右手に炎を纏わせる。
ロックハートも風の翼を小さいながらに生み出している。
逃がすつもりは毛頭ない。
『ワガママじゃありませんよ。
軍人なら成果を持って帰るのが当然の務め。
指令の中の死は、当然の流れだから認めますが、捕虜なんてマネは嫌です。』
「アホが・・・旧時代の拷問などというマネは有り得ん。」
『そうだとしても、嫌ですよ。』
少しの沈黙・・・
これ以上言っても仕方がない。
「・・・なら・・・さっさと失せろ。
貴様と問答している時間の方が無駄だ。」
「あぁ?何言ってんだ、ロックハート!」
『じゃ、お言葉通りにします。今日は軍を撤退させますが・・・
明日はどうなるか分かりませんよ。決めるのは上ですから。』
「・・・次は全員殺す。そうラゥムに伝えておけ。」
『ハイ、どうぞ宜しくお願いします。』
ヴンッ!
「って、テメェ何逃がしてんだよ!」
「分からんのか。明らかにお前の魔力の扱いは上がり、
“読み”の動作で奴の動揺を誘うまでには至っていた。
だがそれでも結局、掠り傷程度だ。それは俺も変わらんがな・・・
そんな奴を捕らえるために時間を割くのはこちらの戦力を消費するだけだ。」
「・・・・・・クソ。
(正論だけに言い返せねぇ・・・)」
「そういえば、“読み”って・・・?」
こう言う時にいう“読み”は相手の次の行動予測のことだろうが、
それではないのだろう、とリノンは理解しているつもりだ。
「・・・よく見れば分かると思うが、この辺り一体は少し勾配ある。
奴ほどの足の速さになると、移動スピードの制御が非常にシビアになる。
その微妙な部分を崩す方法をこのアホは見事に読み取った。
それが、突進の時や空中からの攻撃への移行モーションの時に明確に現れた。」
「あ・・・斬り損なってたし、
跳ぶ必要が無かったのに跳んでた。」
かもしれない、と語尾につけようと思ったが、
プライドが許さないので止めておいた。
「斬る際に踏み込みが必要だが、それに必要なエリアがまた微妙に違っていた。
踏み込みが上手く出来なければ、斬れても殺れる確率は下がる。
だから、跳んでその確率を上げた。それら“ストラクチャー(勾配など)”を読み取り、
そこから予想される動きを読んで行動した・・・・・・そんな所だろう。」
「ご高説どーも。大当たりだよ、バーカ。」
↑自分は感覚で動いてるから、論理的に説明出来なくて悔しい人。
「アンタ、意外と強くなってるんだ。」
「“意外と”は余計だってーの。
ちゃんと強くなってんだよ!じゃなきゃ、アイツを退かせることなんて」
「ハイハイハイ。分かってるわよ・・・そのぐらい。
ちゃんと信じてたんだから・・・」
「お、おう・・・
それなら、頑張ってきた甲斐があったけど・・・」
ザッ。
「・・・俺達も一度退くぞ。
向こうの戦闘も終わっているハズだ・・・
(・・・この戦い・・・不自然な事ばかりだ。
イムラもそれを分かっているハズ・・・
第二波に備えて、色々と考える必要がありそうだな・・・)」