ACT.89 敵
1時間後 ユーリケイル城
「どうやら、後退してくれたようですね。」
「うむ。まだ安心は出来ないが、お陰で助かった。」
「いえ。
それより、国王も気付いておられると思いますが・・・」
「・・・うむ。」
落ち着かないのか、席を立って歩き回っている。
「この襲撃・・・かなり用意周到に来ると思っていたが、
どうもそうではない様な気がするのだ・・・議会でもその判断だ。」
一度立ち止まりキッド達の方を見る。
「戦線に居た君達ならよく分かるだろう・・・
特に扱いの難しい精神魔法を一撃で成功させるなど、
いくら優れた魔術師でも非常に難しかろうに・・・」
「いえ・・・私はそんな大した力は・・・」
なんて珍しく謙遜するリノン。
ただ、そうは言っても引っかかりはある。
「ただ・・・何でかは知らないけれど、
小隊や中隊といった少人数での構成でした・・・
そのお陰で余り使いこなせていない魔法を上手く当てる事が出来たんですけど・・・」
実際の所、リノンはあの魔法で戦意喪失まで出来るとは思っていなかった。
出来て、精神を少し痛めつける程度の足止めだと考えていたのだ。
だが、人数が思った以上に少なかった上に魔術師が敵にいなかった事が更に幸いした。
「ヤケに少ねぇと思ってたけど・・・
やっぱなんか裏があるのか・・・それともマジでバカなのか分かんねぇな・・・」
「うん。
望遠鏡で見たら、平原の向こう側には一杯居たみたいだったけど・・・
その上、バラバラにやって来てて・・・何て言ったらいいのかな・・・」
「細かい指示が行き届いていない・・・そんな感じですわね。」
「そう、それです。」
その通り、バラバラで疎通が出来ていない状態だった。
もちろん、小隊規模などのまとまりでの行動は出来ているのだが、
全体としてのアクションが余りに実戦的では無かった。
「端から見れば、突然の戦争ですからそうなってもおかしくはありませんけど、
今回の場合はそれは余り考えられませんわね。理由は」
右手で指を二本立てる。
「2つほど考えられますわね。
1つは有り得ないだろうけど、本当に指令が届いていなかった。
もう1つは、クライセント隊長達が何らかの行動を起こし、妨害してくれた。」
「うむ。
それはかなり考えられる事だな。そうあって欲しいと思う。」
「そして僕はもう1つの可能性があると思・・・
って・・・キッド・・・?」
何か言いたげだ。
「いいッスか?
答えていいッスか?いつも以上に閃いてるから。」
「あ・・・ああ。
そう言うんなら、3つ目言ってみてもいいが・・・」
「うッス。
3つ目!実はラゥムの野郎は」
「ユーリケイルを攻めるほかに、
何かおっきなコトをしようとしてた〜っ!とか?」
「・・・・・・・姫・・・ひでぇよ・・・
・・・・・・もう俺、黙って聞いてる・・・・・・」
(さ・・・流石に酷いですわね・・・)
(姫・・・かなりワザとっぽいですよね。)
「そう。
キッドや姫も考えた通り、僕もそうではないかと思うんです。」
↑最大のフォロー発動。
(やっぱ、先輩は一番の先輩だよ・・・ウン。)
あくまでフォローなんですが。
「ユーリケイル侵攻はあくまで布石・・・別の意味があると考えますが・・・
ただ、今はこの考えを口に出すのは時期尚早・・・
隊長達の動向が分からない段階では、それをハッキリ言うのは恐ろしいです。」
「・・・・・・そうだな。
しかし、どうする。クライセント殿と連絡を付けようにも・・・」
「問題ない。」
ようやくロックハートが口を開いた。
「・・・・・・俺の知り合いに忍が居る。
・・・彼女は既にこの国に入ってくれているハズだ。彼女に接触を頼む。」
「分かった。
しかし、その忍は・・・」
「小さな隠れ里の忍だが、天真忍軍との繋がりはそれ相応にある。
それに関しては心配せんでいいし、彼女は中々のやり手だ。
途中で殺られる事もないだろう・・・」
「・・・うむ・・・そうだな。
我々の諜報部を動かすには目立ってしまうだろう。
貴方の提案に頼らせて頂きたい。」
「・・・それなら話が早い・・・・
・・・丁度いい・・・・・1日ほど俺も離れるぞ。」
ザッ。
「待って。ロックハート君。」
「・・・・・・何だ、リノン・ミシュト・・・」
鋭い眼光―――
言う事は、言われる事はとっくに分かっている。
だから、早くこの場を立ち去りたいが、
立ち去ると言う事は認めるという事に繋がる。
「この際だから、聞いておきたい事が1つあるの。
戦場で兵士の人たちがあなたの事を“王子”って言ってた・・・本当にそうなの?」
(んなっ?)
(王子サマなのーっ!?)
――――――――――――。
「・・・・・・知らんな。」
「・・・ロックハート・・・僕も皆に説明するべきだと思う。」
「・・・どうやら、そこの“保護者2人”は・・・
その顔じゃ知っている様だな。やはり、あなたが言ったのか。
どうしてそんな余計な事を言ってくれる・・・・・・」
キッと国王を睨みつける。
「私は余計な事だとは思わない。君はやはりこの国を継ぐ者だ。
だからこそ、私はこの2人には2年半前の事を」
「黙れ!!!」
シ・・・・・・ ンッ・・・!!
「必要かどうかは、当事者の俺が判断する事だ。
故に俺は当時の権限を持って命じたハズだろう!」
「だが・・・!」
「・・・・・・この場に居る全ての人間に言っておく。
2度と俺の前で、2年半前の事を言ってみろ・・・その時はお前らも俺の敵になる。
それはヒルダンテスとも刻印とも、ラゥムなどとも全く関係の無い軸での話だ。」
タ・・・ンッ!
「・・・・・・ロックハート・・・」