ACT.90 想定外
「取りあえずよ・・・
大体の事は聞いてみたけど・・・」
「・・・・・・うん・・・・・・」
ロックハートの父であるロードハート・ウィルスタインはこの国の王でだった。
だが二年半前、何を思ってか絶対王政を敷かんとし、反逆者をことごとく殺した・・・
ユーリケイル共和国は国王軍と解放革命軍とに分かれ、
当時、他に勃発していたローテルダム−トルレイト戦争の影響もあり、その戦いは熾烈を極めた。
その中でロックハートは父ロードハートの暴走を止めるべく
先陣を切ったと言われており、相討ちによって死亡したとされていた。
だが、その後、彼はユーリケイルから程近い北大陸に構えるソーライト王国にいた。
そこで彼は騎兵隊所属・対魔族専任剣士隊の一員となり、
後に王女クリスティーナの専属近衛兵となっていた・・・
「・・・ロックハートが僕らとは一線離れた所に居るのは、
巻き込みたくないから・・・というよりも、心を許しあう仲になり、
その中で誰かが死ねば苦しむ事になるからだろう・・・・・・
それは恐らく・・・今も行方不明であるクリスティーナ姫の事もあるからだ・・・」
ガンッ!
「キッド・・・?」
「・・・馬鹿かよ・・・!
あいつの中に流れてるモンが何であっても・・・あの野郎はあの野郎だよ。
俺はあいつじゃねぇから、分からねぇ気持ちはゴマンと有るけど、
仲間が居ないから苦しいんじゃねぇのかよ・・・・・・」
(・・・キッド・・・・・・)
「・・・ただ、今後は彼の前では言うべき事では無いですわね。
彼は心強い味方ですし、何よりソーライトの一件があるのに、
それに加えて昔の事を掘り返しては彼が傷付くだけですわ・・・・・・
これは・・・私たちも考え直さなければなりません・・・」
「そう・・・ですね・・・
・・・私、あんな所で言わなきゃよかった・・・」
かなり落ち込んでいる。
怒らせてしまったのは確実に自分だから、
それに辛い事を思い出させてしまった事はもっと痛い。
「それは違いますよ、リノンさん。
彼には悪いけれど、いずれは知り得る真実だ。
いずれは分かる事なんです。それを聞いた事を悔やむ必要はないよ。」
「そう言ってもらえると少し気が楽になりますけど・・・・・・
でも・・・・・・何か・・・どうしたっても苦しいだけです・・・。」
ほぼ同刻 ユーリケイル共和国領
「良かった、無事で何よりです。
そこまで来ていましたか・・・」
「ロックハートさんもご無事で・・・
それより、すみません。ローテルダムで落ち合う話でしたが、遅れてしまって・・・」
「いえ・・・
それより、リサさん。姫の事は・・・・・・」
「・・・未だに詳しい事までは分からないんですが、
天真の里は帰郷禁止で、その上、箝口令という非常事態宣言が敷かれたとか・・・」
リサ・クランバート。20歳。
ロックハートと共にクリス姫を捜す彼女の侍女である。
「・・・・・・・・・。」
「姫との関係はどうとも言えませんが・・・・・・」
「・・・いや少しは関係があるとは思う。
違う・・・・・・ある・・・今度こそ・・・ある。」
「私もそうであって欲しいです。
あ・・・そういえば・・・
ローテルダムの第一大隊と第四大隊をここに来る際に見ましたよ。」
「! という事は・・・」
「ええ、クライセント総隊長を視認しました。
トルレイト軍の部隊に優勢でしたので恐らく勝ったものと思います。」
良かった。
これで上手く動く事が出来る。
「そうか・・・・・・
しかし、直接会わない事には・・・だな。」
「分かりました。それでは、私はこれから」
「いや、俺も行く。」
「? ロックハートさんは今、例の彼らと・・・」
「・・・・・・構わん・・・
今はあの場には、そしてこの国にはやはり居辛い・・・」
「・・・そうですね・・・分かりました。
行く旨を伝えた後、ここでもう一度、落ち合いましょう。
それだけはしなくてはなりませんから。」
???
『・・・何をやっている・・・
もう少し手際よく出来るだろう? 』
『申し訳ありません・・・ヒルダンテス様。』
魔人となった男カタルカスが頭を下げるのは
“閃光の刻印”の所持者にして漆黒の男・・・
『フン・・・聞けば、イレギュラーがあった様だな。
もちろん、それは見越していたが、想定外の部分がある・・・』
『・・・あのクライセント・クロウが率いる部隊のことですか?』
ザッ。
『そうだ。
紅の刻印が目覚めている時点で既に計画に修正を入れねばならんのに、
たかが人間とは言え、あの男が参入するとなると更に考えねばならんな・・・
奴は・・・あの男の意志を継ぐ者の1人だ・・・』
『・・・・・・殺すのならば、拙者が。』
巨剣を軽々と持ち上げ、突き立てる。
『ご拝命下さい。
ローテルダム陥落の最大の壁は拙者が崩します。』
『・・・・・・
・・・そうだな、クライセント・クロウはお前に任せよう。』
『ありがとうございます。
しかし、その他の下らぬ壁には構ってはいられぬでしょうから、
「奴」を連れて行きたいと思うのですが。』
『いや、「奴」は別に動かしてある。』
『・・・・・・御意。
クライセント・クロウの首・・・必ず。』
ヴンッ・・・
『この戦争・・・・・・行く末を知るのは私と“あの男”、
そして“奴”ぐらいだろうな・・・クク・・・・・・・・・
さて・・・そろそろ、向こうの私はどうなっているかな・・・・・・』