ACT.91 殺人鬼


翌日 ユーリケイル城 捕虜収容室

『へぇ・・・アンタって意外と忙しい身なんだねぇ。
 2回目の攻撃があるかもしれないのに、自分で捕らえて聴取も取るんだ。』

などと、余裕な態度を見せるのは昨日捕らえた閃迅組のユリだ。

「総隊長には委任状を貰っているし、
 この国の国王にも許可してもらってるんでね。
 ある程度の権限は発動出来るんだよ。」

『ふーん・・・・・・
 しっかし、思ってた以上に扱いがイイって感じ。
 食事なんか軍のより数倍いいし。これで独房じゃなきゃいいんだけど。』

「・・・それは君の回答次第だよ。
 僕らに協力し、戦火の拡大を食い止めてくれれば、君の罪は無いも同然だ。」

交換条件―――
ただ、シンの側近である以上期待できない。

『・・・・・・言うと思ってんの?』

「・・・。
 今回の攻撃、ラゥムの指令によるものか?」

『・・・・・・じゃなきゃ、ここにワザワザ来ないでしょ。』

少しばかりの沈黙が続く・・・・・・
相手も相手で何か言葉を選びながら答えている。
だが、こちらがそれにあわせる必要は無い。

「・・・それもそうだね。じゃあ、話を変えようか。
 トルレイト軍が参入する事を君達、ラゥム派は知ってたのかい?」

『さぁ・・・ね。まぁ、アンタの想像に任せるよ。』

「ユーリケイルの軍事力が整っていないとは言え、
 あの程度の戦術で攻め切れるとは思っていなかったハズだ。
 何にしても何らかのコトがあるのは分かっていたね?」

ユリの発言はとりあえず気にしない。

『だから・・・
 アンタの想像に任せるって言ってるでしょ。』

「・・・・・・少ない情報だが、聞けば総隊長達はトルレイトの陣を強襲・・・
 そこに居た60%の兵力を捕縛または破壊したそうだが・・・」

ザッ。

『・・・・・・何よ・・・・・・』

「・・・トルレイト軍が参入するコトは予想出来ても、
 ピンポイントで強襲することなど、如何に隊長達と言えど不可能だろう。」

よもや6割もの敵兵の行動を不能にするなど、尚更である。
相当な準備や作戦成功が無ければ、有り得ないと言いきれる。

『・・・だから、何が言いたいの?
 アタシ、回りくどいヤツって嫌いなんだけどー。』

「・・・君は知って居るハズだ。
 ラゥム派に情報漏洩した人物が居る事を・・・
 そうシン・ヤマザキが総隊長にその情報を流した事を。」

『――――――・・・・・・。』

今までソウジの発言に答えてきたユリがようやく沈黙する。
これは、イエスだと判断できる。

「そして、その理由も、真の狙いも全て君は知っているハズだ。」

『はっ・・・残念。
 悪いけど、さすがにシンちゃんの考えまでは知らないよ。』

「・・・なるほど、“考えまでは知らない”か・・・」

『あ・・・』

しまった、という表情で止まる―――。

「甘かったね。
 そんな言葉が出るという事は、やはりシンはラゥムではなく、
 少なくとも自分の意志で動いているというコトは確実か。」

『――――――!』

「・・・それから、ここに到着してから色々と君達の事を調べさせて貰ったよ。」

『へぇ・・・ご苦労だねぇ。』

「・・・君の名前は、士族ストラディ家の末裔、ユリ・ストラディだ。
 そしてその士族が、過去数百年に渡って仕えてきたのが、
 今は連合軍の保護下にあるソーライト王国。」

『・・・・・・・・・』

次は当たっていたようだ。

「そう・・・
 君もロックハートやシンと同じ、ソーライトの数少ない生き残りの兵士だ。」

『・・・だとして、何の関係があるって?』

「関係大有りだよ。
 同国の同志。互いに知り合う存在。もっとそれ以上かもね。
 君は知っているハズだ。
 シンの真意を。あの試すかの様な戦い方の意味を。」


バンッ!


『うるさいわね。知らないって言ってるでしょ!?』

もはや、否定は無い。名前を知られた時点で、
近しい関係があるという事が明白になった時点で意味が無いのだ。

「いや、君は知っている。」

『アンタ・・・アタシらのこと、色々調べて聞いてるけど、
 だったら大体の予想は付いてるんでしょ?一々、言わせる気?!』

「・・・・・・仕方ないな・・・今日は引き上げるよ。」

『もう来たって無駄だよ。
 知らない事は知らないし、喋らないんだから。』

「・・・・・・いや・・・
 ・・・君は必ず言うさ。シンの事を想う君ならね・・・」

静かに立ち上がり、扉の前に立つ。
そして、僅かに振り返りユリを見ている。

「それからね・・・・・・余り僕をなめない方が良い。
 僕はロックハートとは違ってね、
 人を殺すのは仕方が無いこと、なんて前提は持たない。殺すよ。」


・・・バタンッ


『・・・・・・・・・ッ・・・
 (何が天才剣士さ・・・・・・
 アイツは・・・アイツの眼は殺人鬼そのもの・・・!)』