ACT.92 十二分に


ほぼ同刻 ソラブ大平原
ローテルダム騎兵隊第一・第四大隊本陣

「!君は・・・確か・・・」

「・・・こうやって話をするのは初めてだな。
 ソーライト王国王女専属近衛兵、ロックハート・クラウンだ。」

そう言って変装道具などを取り払う。
クライセント相手に敬語が無いのは、王族警護の権限がある意味、
一国の総隊長のそれを上回っている上官だからである。

「こちらは、
 俺と同じくソーライトの王女専属侍従、リサ・クランバートだ。」

「初めまして。よろしくお願いします。」

一方、リサは侍女という肩書きだが、大隊長クラスの指揮権を有している。
王位継承者を守護する為の絶対的・圧倒的な力だ。

「一体どうしたんだ・・・彼らと共に居たんだろう?」

「・・・気にしなくて良い。
 今後の行動について、直接足を運んだ。」

白い封筒を差し出す。

「・・・文面を書いてくれたのはソウジ君か。なるほど。
 やはり、俺達の行動について気になる点があるから・・・という理由でもあるんだな。」

「はい。ロックハートさんから聞いた話では、トルレイトに対する強襲の成功・・・
 それは、ラゥム派であるハズのシン・ヤマザキ隊長の密告によるもの・・・
 との意見でソウジさんと意見が一致しているそうですが・・・」

リサがロックハートから聞いた事を言う。

「・・・ともかく、座ってくれ。」



・・・・・・。



「俺達も不思議でならないんだ。何故、彼が我々にその様な情報を流したのか・・・
 しかし、かといって何もしない訳にはいかないし、
 ユーリケイルを助ける為にも非常に危険ではあったが決行した。」

「・・・トルレイトの反応はやはり・・・」

「ああ、慌てふためいていたよ。もし、罠なら誘い込むなりしていただろう。
 そうなれば確実に甚大な被害が出たハズだ・・・」

罠が無かった―――慌てていた。
少なくとも、現地の軍はそれを予期していなかったという事。

「シンが情報を流した事もそうだが、あなた達が出兵出来たのも妙だ。」

「確かにそれは我々も感じた。リカード君の機転もあったが、
 それでも何の障害もなしに行動出来たのは不可解極まりない・・・」

「それについては、捕縛した者から聞き出す所ですが、恐らく無駄でしょう。」

「捕虜だから、手荒な真似は出来ないからなァ・・・
 どうも俺はこういう理不尽さは気に入らないんだが、仕方ない。」

捕虜に対する人権保護などの条約がキッチリとあるからだ。
例えそれが、トルレイト帝国という敵性国家であっても守られるべき事項なのだ。
クライセントとしては一発殴ってやりたいのだが、やればこちらが終わってしまう。

「・・・ともかく、この問題は直に分かる事の1つですが、
 まずはラゥム派とトルレイト軍の第2次侵攻です。」

リカードが資料を読んでいく。

「私が調べたところでは、トルレイトはもう一大隊を別に配置し、
 次は恐らくラゥム派と共にユーリケイルに対し、
 前日の攻撃とは比にならないレベルでの多面攻撃を仕掛けてくるでしょう。
 この別途に配置した隊は、緊急時に使うためかと。」

「―――――――――気に食わんな。」

「? どういう意味だ、ロックハート君。」

「・・・どうも別働隊が気に食わんが・・・
 まぁ、いい。気にしないでくれ。」

「・・・・・・・・・。
 我々だけで話していても仕方が無いか。
 リカード君、隊長級会議を執り行う。集めてくれ。」



同じく同刻
「っしゃ。もうユーリケイルやで。」

「戦闘は今のところ・・・終わっているようだけど・・・」

トルレイト軍がまばらに陣営に戻っている様子を通りがかりに見た。

「小康状態やな。せやけど、この機を逃すと渡られへんかったし。
 しんどいけど、もうちょい我慢してや。」

「大丈夫です。
 やっと会えると思うと、そんな辛さは・・・」

本当に疲れなど見せずに、嬉しそうにしている。

「そら良かった。
 (ホンマ・・・
 こんなカワイイコにここまで想われるなんて、ちょっと羨ましいで・・・)」



同刻 ラゥム派本陣
『ユリ・・・
 拷問とかされてるんじゃ・・・・・・』

『アハハ、それはないよ、チュージ。
 ソウジさんは聡明な人だから、
 国際法に違反するようなマネはどうあってもしないだろうし、
 何より僕について、聞きたい事があると思うんだ。まぁ・・・』


チャッ。


『・・・何を喋ったとしても、ユリを無事に返してくれればそれでいい。
 チュージの言うようなコトをするんだったら、殺して助けるまでさ。』

ふざけた感じだが、“殺して”の部分には殺気が入り混じる。
シン・ヤマザキに感情が無いわけじゃない。
ただ、見せようとしていないだけ。

『・・・・・・・・・』

『・・・何か言いたげだねぇ。ヘーハン。』

『・・・・・・あまり、勝手な行動を取ろうとするな・・・と。
 そういった行動をすればするほど、ラゥム様の首を絞める事になる。』

『・・・くす・・・
 ・・・分かってるさ・・・』



十二分にね・・・