ACT.96 直感
「・・・そうですか・・・
ロックは別地にいるんですね。」
「もう1日早かったら、会えたんですけど・・・」
ようやく会えると思っていたのに、まさか移動していたとは―――。
ロックハートは彼女 クリスティーナ姫を探し続けていたが、クリスティーナもまた同じだった。
その落胆は大きい。
「しもーたなぁ・・・
クライセントさんに戦場やから迷惑かけたらアカンと思って、
遠回りしてしもたんが仇になってもーたか。」
(っていうか・・・
ブラッド君って前々から行動が忍者してたけど・・・)
(リアルに忍者だったとは思わなかったぜ・・・)
などと、クラスメートの変貌振りに驚く二人。
「そんな、ブラッドさんのせいじゃありません。少しタイミング悪かっただけです。」
「まぁ、現状を見るしかないですよ。」
とりあえず、タイミングが悪かった、という話を終わらせる。
「ソウジ・イムラと申します。
クライセント隊長からこの部隊の指揮権を預かっています。
クリスティーナ姫がどうして、天真忍軍の彼と共に居るのか、いや・・・
ソーライトで何があったのか、真実を辛くならない程度で構いません。」
「いえ・・・全てお話します。
その・・・・・・ロックハートは・・・
何もお教えにはなっていないのですね・・・」
「ええ・・・まぁ、そんなところですが気になさらないで下さい。」
「(ロック・・・・・・)・・・お話しましょう。」
「そもそも私とロックハートの関係は皆様もご存知かもしれませんが、
王女とその近衛兵、つまり最も近い側近です。
彼が2年半ほど前に我が国の騎兵隊に入隊後、その運動能力と剣術が認められ、
すぐさま対魔族専任剣士隊―――いわゆるデーモンバスター隊に配属されました。」
二年半前―――
ロックハートがユーリケイルを発ち、そのまま来たという事になる。
「そして、1年前の1月。
世界情勢が混乱し始めた事もあり、彼を私の近衛兵に任命しました。」
「面識はあったのですか?」
「いえ・・・・・・その、彼がユーリケイルの・・・と言う事は存じて・・・
あ・・・あの、もしかして・・・この事は・・・」
“ユーリケイルの王子”と言う事を口走ってしまった事に慌てているが、
ソウジが皆も既に知っている事だと言うと安心してくれた。
「・・・騎兵隊をはじめ、議会も彼を気遣って居たのだと思います。
彼の覚悟も承知の上でしたから・・・
その―――彼はああいう物言いをしてしまう人ですが、
とても心の優しい人で1年近く一緒に居ましたが、すごく・・・安心しました。
ただ――――――・・・1人、それを乱す者が居ました。」
白銀の髪がうつむく。
部屋の明かりにでさえ、その美しさを見せ、
それが白銀の姫と呼ばれる所以なのだと感じさせる。
「・・・・・・特務大臣ヒルダンテス・ラロイドです。」
「やっぱりあの野郎、もぐりこんでたのかよ!」
「・・・はい・・・」
眼が震えている。
「・・・彼は3年ほど前に才を認められて、
一気に大臣の座まで上り詰めました。」
「――――――。」
ソウジが直ぐに察する。
「・・・・・・その様子だと多少の不信感は持ってたんですね。」
「・・・ええ。確かに才はありましたし、
彼の着任後は驚くほどに政策が上手くいっていました。
けれど、父も大臣のお2人も傾倒しすぎていて、怖かったんです・・・」
ぐ・・・ッ!
「―――あの人の目だけはまともに見られなかったからかもしれません。
ただ、そういう直感でも・・・怖かったんです―――。」
「ロックハートもあなたと同じ様に不信感を?」
「・・・分かりません・・・ただ、彼からは何かを感じ取っていたと思います。
私のような勘ではなく、能力として彼は長けていましたから。」
受け入れられない―――
それこそ、生理的にとか精神的に駄目な空気というのだろうか。
「もしかしたら、
私が彼を嫌っていたのは私の中にあるという鍵が原因なのかもしれません。」
「鍵・・・・・・」
「はい・・・・・・」
ロックハートの刻印、シルフィードが語った言葉と同じだろう。
ヒルダンテスが現れた事から、クリスティーナ姫は間違いなく鍵を持つ者の1人。
「―――その事を知ったのはあの事件の日・・・」
「・・・そのまま、話せますか?無理する必要は」
「ロックは・・・貴方達にご迷惑をかけていると思います。
彼は余りに人にも自分にも厳しすぎる人ですから、
きっと皆さんに失礼な事を―――・・・ですから、私には話す義務があります。
ソーライトの継承者としても、逃げるつもりはありません。」
「でも、姫が辛いと感じる事を話すって事とは違うッスよ。
それにあいつはただ、必死なだけだから・・・それは俺もみんなも分かってるし。」
どんなに考え方が違っても、それだけは分かっているつもりだ。
だが、分かっていながら反発してしまう矛盾が自分でも不思議でならない。
「ありがとうございます、キッドさん。
でも、そうだとしても・・・結局、ロックはみなさんに何も話していない。
だから、私がお話したいのです。最初からそうするつもりでしたから・・・」