ACT.97 過去の僅かな真実
「・・・・・・それならば、続けて下さい。」
「・・・・・・近衛の仕事は私の起床前から就寝前までと決まっています。
その後は、侍従の方達が交代で巡回してくださるんです。」
「?フツーは夜の方が狙われるんじゃ・・・」
「いえ。確かに夜は非常に危険と考えられますが、
それ故に警戒態勢はかなりのものとなっています。
過去10年に破られたことは殆どありません。」
「・・・どうぞ。」
すぅ、と息を吸って再び語りだす。
「あの日・・・
彼は自室に戻る際に所属していた対魔族専任剣士隊・・・
つまり、デーモンバスター・・・ロックを除く総勢50名によって襲撃されたのです。」
「「なっ・・・・・・・・・」」
元同僚が全員敵に回った―――。
そのときのロックハートの気持ちは計り知れない。
「その話は俺らが調べた事で分かったんや。
刀と何らかの魔力による激しい創傷のある49体の死体と、
それら全てが魔界と契約しとったっちゅうことが。」
「・・・49・・・あとの1人は・・・?」
「・・・・・・デーモンバスター隊隊長・・・スワン・ホーゲルです・・・」
がたっ・・・
「そんな事が・・・
ソーライトの豪傑として名高い名将がそんな事を・・・」
ソウジもよく聞いた名なので正直に驚いたが、
「世も末だねぇ・・・ヒルダンテスとか言うボウヤについたのかい。
名誉欲じゃ満足出来なくなってたんだろうねぇ・・・戦士の行く末の1つさね。」
一番隅で話を聞いてるミサトは流石の貫禄、と言った所か。
多分、本気を出したこの人に勝てる人間はそうは居ないだろう。
「・・・正直、私も信じられません・・・
そして・・・・・・彼は50人全てを斬り、私のところへ駆けつけてくれました。」
「・・・待ってください。あなたは1人でいたんですか?」
「いえ、侍女のリサという方が運良く部屋に居た時にあの男が・・・
・・・あの・・・リサさんはロックと一緒には居なかったのですか?」
リサという女性の存在自体、聞いたことがない。
「はい。僕らは面識がありませんが、
恐らく彼の言っていた協力者はその人でしょう。」
「・・・よかった・・・リサさんも無事なんだ・・・」
再び話を戻す。
「・・・ロックはデーモンバスターとの戦いの中で風の力・・・
あの男は『蒼空の刻印』と言っていましたが・・・それを手に入れ、
あの男が持つと言う『閃光の刻印』に宿る雷の力と激しい戦いを繰り広げました。
そして・・・互いの強力な一撃が放たれた時に、私の周りの空間が歪んだんです。」
「「「空間が歪む・・・・・・?」」」
空間という言葉の意味自体分かりにくい上に歪むなんていわれても、
何となく想像はつかないでもないが、言葉には出来ない。
「余りその事はよく思い出せないんですが、
私の中が熱くなってそうしたら誰も触れられない空間に閉じ込められて、
それが閉じたと思ったら・・・」
「天真の里におったっちゅう訳や。」
「訳分かんねぇ・・・・・・」
歪んで空間に入って、気付いたら忍者の里―――。
訳は分からないが、キッドも移動魔法か?と言う事は分かっているつもりだ。
「・・・ワームホール・・・ですわね。」
「「ワーム・・・・・・?」」「何ソレー。」
「ある空間とある空間の距離を限りなく0にしてしまう歪曲空間のことです。
簡単に言えば、この場所からローテルダム城までたった1歩で行ける・・・
そういう事ですわ・・・」
空間移動魔法とは少々異なる、と付け加える。
どうやら魔法とワームホールの考え方の次元が違うらしい。
「でも、どうしてそんなものが・・・」
「加重の重力魔法を極限まで発動した際にも似た様な現象が起こるんですが、
恐らく、刻印と言う超絶の力同士が衝突した事によって空間に亀裂を生んだ・・・
刻印という特殊過ぎる魔力のあり方ならば
ワームホールやブラックホールなんていう超次元的なものの発生も可能でしょう。」
そして、
「クリスティーナ姫の中にあるという『鍵』―――
もしもその鍵が身を守るために発動したとすれば、
そういう事が起こりうると考えてもいいかもしれませんわ。」
刻印が自身に関わるモノを守る為ならありうる話だ。
そもそも、精霊が入っているという刻印そのものの存在が余りに超越している。
もはや、何が起こっても些末な問題でしかない。
「あくまで仮定の話。ヒルダンテスがコーデリア姫の前に現れた時に
それが起こらなかった。それは、コーデリア姫が鍵を持たない者であるとも言える。
しかし、別の角度から見れば何らかの条件によりそれが発動する・・・」
「・・・・・・ロックの・・・刻印・・・」
「そうです、姫。
ロックハートには刻印にまつわる話は聞いています。
蒼空の刻印に対応する『鍵』。それを持つというプリンセスと呼ばれる者が
確実にあなたであると言う事・・・まぁ、あくまで仮の話ですが。」
「って、その鍵やら何やらの話、聞かせてくれへんか?ソウジさん。」
この色黒忍者ブラッド。
パッと見ヘラヘラしているが目は真剣である。
「その前にお前、何で忍者なんだよ、ちょっと教えろ。」
「しゃーないなぁ、親友の頼みや。答えたる。」
(・・・誰が親友だよ、このボケ)