ACT.99 改竄の魔


「以上が、僕らが知る刻印にまつわる話だ。」

一通りの事―――刻印の始まりから、
キッド、ロックハート、ヒルダンテスがその内の3つを有する事までブラッドに語った。

「・・・なるほど、あらかじめ調べとった事とほぼ一致やな。」

「? お前・・・どーいうコトだよ・・・」

「悪いなァ。お前らを信じとらん訳やないんやけどな、
 忍としての性質上、あらゆる情報には懐疑的でないとアカン。」

情報の吟味。
的確に調べ、中身を見、実行に移す。
それを行なわなければ、例えば暗殺という仕事もやり遂げる事が出来ない。

「例えソレの対象や情報元が顔見知りであると分かっていたとしてもや。
 ちゃんと丁寧に教えてくれたし、何も隠し立てはしてへんからな。
 信憑性は確認出来たし、これでやっと俺の仕事の1つは終了っちゅう訳や。」

ヘラヘラしているが言葉は真剣だ。

「なーにが、忍としての性質で懐疑的だっての。
 聞いた噂を疑いもせずにすぐにバラ撒いたじゃねーか。」

「何言うてんねん。情報操作も忍の仕事やで(笑)」

(・・・改竄しまくりじゃねーか、この色黒忍者!)

(だから好きになれないのよ、この色黒忍者。)

↑被害者の2人。





「・・・仕事の1つというのは、クリス姫をここに護送する事かな?」

「まぁ、厳密にはそれはロックハートっちゅう近衛兵に会うまでやけどな。
 その後は、アンタらに本格的に協力や。
 ヒルダンテスのアホに俺らも色々と面倒な事されてるからなァ。」

「出向先の城や貴族屋敷がやられているのですわね。」

「その通り。
 直接やのーても俺らと関わりのある忍の里の出向先やったりもするけど。」

同業者も組んでの行動という事になる。
もっとも、魔曉忍軍は古くから天真忍軍と対立しているから、
そんな関係には絶対になっていないと断言する。

「ほんで・・・・・・どないするんや?明日には確実に大軍率いて来よるぞ。」

1日間が空いた。
十中八九そうなるだろう。

「クライセント隊長が動く手筈にしているよ。
 その点では、第一波よりもある意味では楽になると言えるが・・・」

「裏を返せば、総隊長さんらが挟み撃ちに遭うてヤバイ・・・やろ?」

「それはあるけれど・・・
 リカードさんの事だ。天真忍軍を呼んでいるんだろう?」

緘口令が敷かれ、外に出られない状況とは言え、
ここまで状況が混乱しているとなれば動かざるを得ない。

「多分そうやろうな。
 俺も一応、要請はしといたから確実やと思う。」

「あとは俺達の行動だよな。」

それによって戦況が明らかに変わる。
特に刻印の力は最大限に発揮すれば、一大隊は軽く潰せるぐらいだ。

「うん。
 でも、プリンセス2人を守らなきゃいけないから・・・」

「そう。ロックハートに頼んだ手紙には明日の正午に隊長たちと合流出来る様にしている。
 合流先は西のポイント、ラゥム派の本陣から少し離れた場所だ。」

「って・・・そんな敵が居る様な場所に行って大丈夫なんスか?」

「相手のバカげた作戦に乗ってやる必要はない。掻き回してやる。
 その為に敵は・・・・・・僕が全て斬る。」


―――――――――!!


「せ・・・先輩・・・・・・」

「罪の無い国を守る為だ。
 僕はその為ならラゥム派の血を被る覚悟でいる。
 だが、お前やリノンさんがそうなる必要は無い。あくまで僕個人の戦い方だからね。」

(・・・今の眼・・・
 ・・・・・・この人の・・・ソウジさんの本当の・・・・・・)

親しい間柄だが、今までも時々感じた。

きっと、幼馴染は気付いていないだろう。
このソウジ・イムラという人の本質―――とてつもなく深く暗い部分に。

「・・・しかし、問題はあなた達2人の姫だ。」

「アタシとメノウに任しときゃ大丈夫さね。」

確かにメノウに加えて、ミサトという最強剣士がいれば安心だ。

「俺はどないすれば・・・
 姫さんの護衛、任されとるけど隊長さんと会わなアカンし・・・」

「アンタはソウジたちと一緒に行きな。
 万が一、姫さんたちも移動する事になったら
 忍の足があれば、すぐに行き来できるだろう?」

(・・・俺は連絡係なワケか・・・)

「あの・・・私がこのままお城へ向かってしまっては、
 城の方々も混乱すると思うのでうすが・・・」

「その点なら抜かりは無いよ。心配する事は無いさね。」







1時間半後 ロックハート隊
「中々便利じゃないか、君。風で浮遊して目的地まで来るとは。」

「・・・フン・・・
 魔力は未だに使い慣れんのでな、乗り心地は最悪だっただろう。」



       ザ・・・ッ



「・・・前方に目標の分隊発見です。」

サクが先陣を切って、相手に気付かれない場所に2人を誘導する。

「・・・へぇ・・・意外と多いねぇ。
 時間が経っているせいもあって、中隊が5つ・・・か。」

クロードは夜目が利く方らしい。
的確に数を見切り、更に今の内から切り込むスペースを探している。

「・・・どうしますか。
 この数だと誰か陽動をかける手もありますが・・・」

「夜襲の時点で既に卑怯者を買って出ている。それだけで十分だ。
 正面から薙ぎ倒すが、まずは通信兵を潰す。その後は早急に壊滅させる。」

ほんの一時でも外部への連絡手段がなくなれば、
それはかなりのアドバンテージになる。ただし、一撃必殺でなければならない。

「・・・サクさん。狙ってくれますか。」

「はい、私とて忍の端くれです。やってみせます。」